アパートが全焼しようがなんだろうが朝はくる。
いつもより15分ほど遅く起きてしまった三橋を誰も責める者はいない。というより起きていない。
三段ベッドの一番下。服を着替えて音をたてないように車椅子に乗り、焼失を免れた財布を携帯と一緒に小さなポーチに入れ、首から下げる。車椅子を使っている時は下手な所に置くと気付かず落としてしまうのだ。
玄関の守衛詰め所に行き、理由とコンビニの場所を恐る恐る聞き出し、車椅子を外に向ける。
「この 時間に、コンビニ…行ったこと、ない。」
ちょっとした冒険、と三橋は笑いながら車椅子をこぐ。目的のコンビニはすぐに見つかり、中へと入る。
「シリアル…より、パン。」
車椅子の上にかごをのせると、一気に視界が狭くなる。それも慣れてるので、真っ直ぐ車椅子は目的地へと向かう。
食パン、牛乳、バナナとお茶を購入して、眠そうな店員に車椅子の取っ手部分にかけてもらい、コンビニを後にする。
その時、携帯が振動する。中央を走らせていた車椅子を端に止め、ブレーキをかける。それから首にかけたポーチから携帯電話を取り出す。
「もし、もし。」
相手がわかっていても携帯で話すのは苦手だ。
『三橋。』
「ハマ、ちゃん。」
お互いの位置を確認すると、そう離れていない所にいるようだ。
今迎えにいくからそこで動かず待っててくれ。という言葉に肯定の言葉を返すと電話は切れる。
ふぅ、と息をついて、少しの間、朝の爽やかな空気を味わっていた。
二人が再会したのは、三橋が携帯のボタンを押して、わずか2、3分のことであった。まずは浜田が三橋の珍しい行動に驚き、そして喜んだ。三橋も照れくさそうに「ウヒ。」と笑う。
そしてやや浜田は表情を引き締めると、火元の夫婦が自殺したことを告げた。予想できていたのだが、言われると悲しい。
「しゃっきん……」
三橋は背中のバックからパソコンを取り出す。タタタと慣れたキーボードの音が朝靄の中響く。
「ああ。多額の保険金にハイエナが群がるだろうから…」
「もうそれに関する対処もすんだ よ。」
パチン、とエンターキーを押す。それでおしまい。
「さすがだな……」
浜田がはぁ、と溜め息をつく。立て直しをするにも、全員の保険金では足りないのだ。表の金では。
「洗浄済みの金は?」
「色々な とこ…」
様々な方法で隠しているらしい。この方法を教えたのは浜田だ。三橋はそういう意味でも良い生徒である。
「今は何もしなくていい。田島や泉の所でかくまってもらえ。」
その言葉の裏を読んだ三橋の表情が硬くなる。
「な にか、おきて…」「平気だよ。三橋は。」
くしゃっと三橋のくせっ毛を撫でると、浜田は三橋がぱたんと閉じたパソコンを背中にあるバッグに入れて、車椅子を押し出した。
「玄関の近くまでな。」
「う ん。」
「何かあったらこっちから連絡入れるから。心配するなよ。」
「う……ん。」
「三橋。平気だからな。」
「………」
三橋の不安そうな顔は、玄関近くに着き、浜田と別れても晴れなかった。