泉 孝介の朝は、しごくまっとうに始まる。
ベルより前に起きて………あ。と思う。
見慣れない天井…というか板。記憶をたぐりよせ、ああ、と思い出す。
昨日、家が燃えてしまったのだ。
衣服とかは今日か明日か休みをもらって買いにいくとして…カード類は…とりあえず銀行のカードは残っている。それを引き落とせばどうにかなる…
で、上でがーがー寝ているだろう者をさっさと起こすことにする。
がん!
天板をがんがん足で叩き、いつものノリで田島を起こす。
「おーっす!」
寝起きは悪いが寝覚めは良いという恐ろしい体質の田島はさっそうと3段目のベッドから降りてくる。 飛び降りて。開口一番。
「あれ?三橋いないぞ?」
「え?」
そういえば、と、今更ながらに田島の起こし方を思い出してしまった。自分の寝ていたベッドは3段ベッドの2段目。田島に攻撃を与えると自動的に1段目の三橋にも迷惑がかかってしまう。
「車椅子もないし。」
見ると確かに昨日寝る前まではあった車椅子がそこにない。
あれぇ?と二人が悩んでいると、ドアに小さな音が。こんこん。
「三橋?」と開けてみると確かに本人。
「あ あ、あの…あさご はん。」
その言葉に二人は顔を見合わせる。同時に三橋の顔を見る。
「いや、そこら辺のコンビニで買ってくるから…」
「う、 う よ よろしければ。」
朝ご飯、作りました。
田島と泉の歓声が仮眠室からあふれ出た。
どんな朝だろうが食べ物と飲み物さえあれば朝食となる。三橋はともかく田島と泉は朝から相変わらずの食欲旺盛なようで、ご飯は出来なかったので、一つある電気コンロで山盛りのフレンチトーストを作っていたのだ。それと包丁がないから、とコンビニのサラダ。フレンチトーストの残りの牛乳。いつも和式な朝食だったけどこれも悪くない。
腹一杯になったところで片付けながら三橋と話をしていると、あっというまに出勤時間。一度部屋に戻り、昨日と同じ服を着ると、給湯室で何かしている三橋に行ってきますの挨拶をしようとしたところ。
「ど、どうぞ。」
ラップにくるまれたサンドイッチ。
これには二人とも大歓声をあげ、大喜び。
「じゃ、行ってきまーす!」
「行ってくるぜ!」
意気揚々とブースに向かう二人に、いつもの通り「行ってらっしゃい。」の声。
場所は違えども、いつもの朝となったのであった。
いつもの通り…ではないけど、二人がブースへと来ると、早速矢継ぎ早に質問が飛んできた。金あるのか?今日こなくても大丈夫だろ?早くアパート決めないと。色々な所に連絡したか?云々。最後にはモモカンが出てきて「今日は休みでもよかったんだよ?」と言われる始末。でも引き出しの中には特製サンドイッチが入っている。帰っても良いなら、三橋を連れて買い物に行っても良い…三橋の段ボールの中には預金通帳やらなにやらが全て入っていたとの事で、金融関係は全て大丈夫らしいし。
買い物かぁ…家にあったパソコンとかも全焼したし…まぁ、少しだまくらかして会社のパソコン使えば事足りるけど。でも服とか…。
泉が田島と視線を交わす。考えてみたら、三橋は上着すら持っていない。自分たちも着の身着のままだ。これから少しかどれくらいか分からないが仮眠室に仮住まいするにもものが少なすぎる。
「じゃあ、有給もらいます。」
「オレも!」
「そうねー。みんなガンガンあるから、使ってちょうだい。…あとこれはお願い。」
早速三橋の所に戻ろうとした二人にモモカンは言う。
明日の朝、三橋くんと一緒に来てくれないかな?
田島と泉はこの会社で働いている者であるが、三橋はこの会社とは無関係なのだ。何かやらされるのか?と思いながらも二人は「はい。」と了解していた。
いつものリュックサックを持って、「お先にー!」と出て行く二人を見ながら、モモカンはたいそうご機嫌であった。
「モモカン…何があるんですか?」
やはりここは歩く心配性、花井が話しかける。
「うーん、田島くんも泉くんも良い人材を連れてきたじゃない。と思ってたところ。」
うっふっふと笑うモモカンに、花井は少しヒいた。
泉と田島と三橋がタクシーで向かったのは、中規模のショッピングモールであった。めいめい下着だの服だの購入して、おかげで車椅子の取っ手の部分から押している田島に丁度人ひとり入れるくらいのスペースをとってしまった。それでも足りないと泉が両手に荷物を持っている。
「三橋ー。」
きょどっ
その姿に苦笑しながら「モモカンがそんな怖ぇコト言わねえって。」と言ってもきょどきょど。
「オレら悪さするとケツバットくらうけど、三橋はあり得ないからなぁ。」
田島のにしし、という笑い声と共に言われた言葉は更に三橋をきょどっとさせるものであった。
「田島!」
「うへぇ!」
ぽかんと何とも形容し難い音が田島の頭から発せられる。無論拳の主は泉だ。
ショッピングモール内の広場に着いたので、ベンチとか適当に見繕って二人は腰をおろす。さっき食品売り場で購入したペットボトルのジュースは三橋からの奢りである。
三人ともにラップでくるまれたサンドイッチを出すと、両手をあわせ、『いただきます。』
パソコンはとりあえず買うか?自作でいいだろ?パーツのいい店知ってるか?ネットでよければあんな。ならオレも自作にするわ。三橋は?う… ん。よーし。適当なパーツ見積もるぜ。あ、田島!オレも同じ考え!
わいわいと会話とびかいジュースとサンドイッチが減り、サンドイッチがなくなっても会話は弾む。
会話もやはり体力を使うもので、一番に疲労の表情がでたのはやはり三橋だった。
モールにあるタクシーにこれでもかと荷物をつめ、借宿へと戻る。
夕食は、早速買った炊飯器による、ほかほかの炊き込みご飯と、やはり購入したトースターで作った鮭のホイル焼きであった。めいめいが新しい下着とパジャマ持ち、ユニットバスのシャワーを浴びた。三橋は一人で出来ると言い、腕の力とバランスで入った。
慣れ? か な?
慣れるまではやはり大変だったらしい。筋金入りだと田島が言ったらウヒと笑った。
今日は早めに眠り、三人で朝ごはんを作ろうということで、早々に部屋の電気は消されたのであった。