ゲスト用のIDカードを泉から渡され、三橋には数年ぶりに大きな会社の門をくぐった。
清潔感にあふれ、人の行き来も多い。ああ、二人が勤めているのはこんな素晴らしい所だったんだ。と思う。その中で若い二人と車椅子は目立った。
巣山は三人を降ろすと自宅へと帰っていった。独身貴族だ。何して遊んでいるかは誰も知らない。
「とりあえずモモカンとシガポに挨拶か?」
車椅子を押していた田島が泉に確認する。
「そうだな。三橋、オレらの上司に顔見せするけど平気か?」
まだ顔色の悪い三橋を心配げに見ながら泉が問いかける。
「う ん。」
その言葉を受け、田島は携帯の短縮で栄口を呼び出す。モモカンとシガポがその場にいることを確認。 応接室を使うことを言うと快諾された。
二人は意気揚々と、一人はまだ茫然としながらエレベーターに乗る。
「ここのエレベーターは広いから、三橋も安心して乗れるな!」
田島が軽い口調で言ったが返答は微妙な否定であった。
車椅子を使い、一人でエレベーターを使用とすると、視界の関係で真後ろが見えないため、非常に不安になるとの事。鏡があればかなり楽になる。と三橋は言った。
自分たちの視界と車椅子の視界との差に二人は少なからず驚いたところでエレベーターが停まる。目的の階に着いたようだ。
「さーてと。三橋を紹介だあ!」
田島が楽しそうに車椅子を引いて、エレベーターから出た。
「あなたが三橋さんね!うちの田島と泉がお世話になってます!」
仕事場の同フロアにある部長室。
秘書の篠岡を含め、その場には3人の男女が待っていた。
隅にいるのは統括責任者らしい。志賀と名乗り、名刺を渡してくれた。
そして女性は明るい笑顔を満面に浮かべ、にこやかに話し始める。
何故か手を握られたまま。
「車椅子に対応してないなんておかしな会社よね!」
百枝まりあと書かれた名刺には不敵な顔が印刷されている。
百枝…モモカンは真剣な顔で「車椅子や足の悪い人用のバリアフリーの企画出しておくわ!」と爆弾発言。これには同席した田島と泉も驚く。モモカンはやーね。と手を振りながら言う。「結構古いんだから、改修工事の算段もとれるし。」とうふふと笑いながら言う。
そっちのほうが狙いのようだ。
「このフロア、もともとパソコン関係の仕事のフロアじゃないから、バリアフリー計画の上に乗せてみるわ!」
逆。それ。
三人が同じ意見に達した時、モモカンがあー、と話しを変えるように苦笑しつつ、仮眠室、三橋の日中の予定などを聞き出し、「じゃ、田島くん、泉くん。」
『はいっ。』
ピシッと固まるのはすでに条件反射。
「もう仮眠室の支度はできているから、三橋くんを案内するのよ。課長たちには落ち着いたら、挨拶ということで。」
ようやく離れた手は、ほかほかと温かくなっている。
「じゃ、おしまい!今日は一日色々ありすぎたけど、ゆっくり休んでね!」
はい、と三人(三橋はモモカンの空気にしっかり呑まれていた)同時に返事した。
「よーし。いい返事。」
二人は明日もう一度ここに来てね♪と言うと、ドアが開いた。篠岡が微妙な表情で「できる事があったら何でも言ってね。」と言ってくれた。
「じゃ、おやすみなさい!」
今度は泉が車椅子を押し、三人がぞろぞろと出ていく。
見計らうかのようにドアが閉まり、百枝は不敵な笑み、というより獲物を追い詰めた肉食獣の笑みになる。
「サイッコーの掘り出し物かしら?」
デスクの上には数枚の報告書。管理人も焼け出されたというから仮眠室いいですかという栄口経由の問いに、返す手でその管理人のことを調べるように言ったのだ。
「明日から楽しみね!」
百枝は呟くと、ゾクッと身を震わせた。