アパート、全焼。

 消火活動、検分も終わり、原因は2階の田島の隣住人の、コロッケを揚げているところで電話が入り、話に夢中になっている間に引火した。軽い火傷を負った住人は、三橋に何度も何度も謝罪の言葉を言いながら救急車で搬送されていった。アパートの住人には必ず火災保険とかに入るというのが入居の条件だったので、三橋はともかく、泉や田島にも保険金が降りるだろう。
「どうしてくれるんだ!」
 そんな三橋の襟首を掴み、殴りかからんとしていた1階の住人を田島と浜田が二人がかりで引き剥がそうとしている。三橋は、車椅子に座ったまま、何も言えずに俯いていた。
「貴様の足が動かないから消火…いや、貴様の頭がおかしいから全焼したん…」
「やめろ!馬鹿野郎!」

 今まで他の住人との折衝をしていた泉が戻ってきた。
「てめえと一緒でオレらだって着の身着のままだ!怪我とか死人が出なかっただけでも有り難いと思わなねぇのかよ!」
 泉の声に男は動きを止める。
「火災保険入ってんだろ?」
 田島の言葉に男は詰まる。え?と俯いている三橋以外の視線が男に集まる。
「いやその…金が…」

 加入したが払ってなかった。

「ンなの自分のせいじゃねぇか。」
 田島が一刀両断する。
 ますます男は何も言えなくなる。力のなくなった手を浜田が三橋から外す。
「取り敢えず行くか。」
 はあ、と息を吐き泉がいきなり言ったことに男を含め全員がは?という顔になる。
「会社。仮眠室を暫く使わせてくれると。…てめえは自分で探しな。」
 俯いたままの三橋の車椅子を田島がそっと押した。泉は持ち出せた荷物を持つ。
 そこに車が止まり、中から巣山がでてくる。
「お。巣山。」
「早くあがったからな。迎えに来たぞ。」
 ヤッホー!と二人が手を鳴らしあう。
「車に三橋を入れるから。」
 浜田がそう言い、ひょいと三橋を持ち上げる。
 田島ががさがさと車椅子を畳もうとしようとしてる中、泉が車椅子の背中にあったカバンを取る。
「あ、それは三橋の命の次に大事にしてるやつだから膝の上に置いて。」
 言われるとおり置くと、俯いたままの三橋がぴくりと動いた。
 浜田を除く全員が車に乗り、彼に礼を言った。彼にはちゃんとした自分の城があるのだ。
「三橋を頼んだぞ!」
 走り出す瞬間の浜田の声が、泉と田島と、彼を知らない巣山にも、やけに耳に残って不可思議な気分にさせた。