その日も普通な一日だったと言える。三橋は浜田に手伝ってもらい、アパートの清掃。一方、会社では田島と泉は楽しくボールを追いかけている。
 普通な一日は過ぎようとしていた。

 三橋の携帯に通常入れないであろう警報音がなるまでは。

「侵入?」

 浜田が慌てて三橋の車椅子を押しながら尋ねる。返ってきたのは頷き。三橋は既に常に持ち歩いてるノートパソコンになにやら打ち込んでいる。
 その間も車椅子は三橋の部屋へと向かう。鍵を取りだし、開ける。
「は、ハ マちゃん!」
 三橋が叫び声をあげる。
 自分のパソコンには信じられないものが出力されている。
 同時に浜田の携帯が鳴る。浜田は相手が友人であることを確認して電話に出る。開口一番『浜田、見たか?』浜田が三橋がキーボードを操る音を聞いている。
 三橋が震える指でパソコンのディスプレイを指差す。
 そこには


『浜田 良郎 ○○○-○○○○ ○○区○○町〜』



 顔写真と共に個人情報が垂れ流しにされている、画面。しかも丁寧に「この人はとっても悪者です。天誅を加えてあげたほうが良いでしょう。」という文章付きだ。
「今、確認した。」
『そこにそいつが…』
「今、情報を出した人をわ りだした よ。」
 三橋の指は、休むことなくキーボードを叩く。
 GPSから転送したのか、ばん、とその住所と名前が出される。
「…お前、これは?」
 浜田の目がすっと細くなる。住所が、今まさに話している友人の家なのだ。
『知るか!何かが始まったらしい。俺も色々手は打ってるけど、さっきからなにやら騒がしいんだよ!』
 まだ何が始まったかは分からないけどな!と続ける。
『お前も昔はぶいぶい言わせてたんだから少しはどーにかしろよ。』
「しゃーねーだろーが。バーチャルネットゴーグルが使えなくなっちまったんだから!」
『まぁ、それがなければ現役バリバリ?』
「…かもな。こっちも情報収集にあたるから、お前にも頼むぞ。」
『GPSで表示されてるのが自分の住所じゃなかったら、こんな危ない橋は渡らないんだけどな。』
「そうだな。」
 浜田も、電話の相手も苦笑する。そして逐一情報交換しあうのを確認しあい、電話を切る。そして車椅子の主を見ると…まだ何かやっている。
「どした?」
 努めて明るい口調で問いかける。
 三橋からの返答は、ない。信じられない速度で画面がスクロールしていく。
「侵入 者は、別。」
 ぱち、と三橋はエンターキーを押す。ぶん…と画面が一瞬ぶれた。三橋の指の動きがゆるやかになったところを見ると一山越えたらしい。二人の瞳孔が開く。家に戻ったのだ。
「三橋、パソコンしっかり持ってろよ。」
「う ん。」
 ひょいと抱き上げると、そのまま室内用の車椅子へと替える。
「部屋に 行く、よ。」
 車椅子を浜田に押してもらい、部屋へと向かう。


 漠然と、何かが始まったのだ。と浜田は感じる。三橋も同じ考えだろうか。
 三橋の部屋のドアを開ける。引き戸にしているのは車椅子だからだ。
「晩ごはんはオレがやるよ。」
「う…」
 申し訳なさそうな顔をしている三橋の頭を乱暴にわしゃわしゃと撫で付け、浜田は笑った。
「オレの為にも動いてくれてるんだから当たり前。何がいい?」
 う。という表情をして、うーあー言った後、小さく「カレー」と言った。
 浜田は「理解。」と言って、小さく笑った。