ゆっくりとバーチャル・ネット・ゴーグルを外し、三橋は息をついた。何度やっても疲れるものは疲れるのだ。
目の前のノートパソコンに目を落とす。既に作業は完了してあり。全てうまくいったという画面になっている。それよりか少しずつ増えていく副業のほうをどうにかしたいと本気で頭を抱える。むにぃと意味不明な呟きをちょっとあげて、この状態にしてしまった自分に嫌悪する。
突然、携帯が唸りをあげて騒ぐ。どうも携帯の着信音は苦手で、いつもマナーモードだ。田島や泉には家の電話しか教えていないので、自分が携帯を持っているのかすら知らないだろう。「三橋は足が悪いから、殆ど家から出ない。」という刷り込みは上手くいっているらしい。
故に、この電話番号を知っているのは一人のみ。
「ハマ、ちゃん?」
それでも声がとぎれてしまうのはもう仕方がないこと。癖、というより病気の一つだ。
『おお、三橋。今連絡が来た。すぐに振り込むとさ。2倍。』
「う ん………」
『どうした?三橋。』
「な なんか おか しい。」
『な、何が?』
電話の先であわてふためく浜田が浮かんできて、本当に申し訳ないと思う。でも、これは誰かにでも言わないと自分自身と何かが乖離してしまいそうな、バーチャル・ネット・ゴーグルを使用している時の肉体と精神みたいな。
「てってい てき に。 みら れ てた。」
もう一つのほうもいつもよりもひどい攻撃だった。今解析中だが洗っていけば一つの組織へと繋がっていくだろう。
『でも、お前は絶対に姿をあかしていないんだろ?』
「う ん!」
それだけは言える。頷ける。自分の方法の正確さとフレキシブルな対応は随時行うバージョンアップにて更に際だってきている。
「だ から、ハマちゃん……」
『ああ、そういうことか。任せろ。オレは三橋にとっては先輩でありアニキ的存在だぞー?』
「だいじょ ぶ?」
三橋の目がうるんとうるむ。浜田には返すにも返せきれない程の恩があるのだ。
『ああ、大丈夫だ。もしも何かあったら泉や田島を頼れ。』
「ハマ ちゃん!」
思わず大声をあげてしまう。その声にくっくっと苦笑が三橋の耳に入る。
『だーいじょーぶだって。三橋。オレがちっちゃい頃ガケから落ちても死ななかったろ?』
「う ん。」
『だからオレは不死!死んでも炎の中から現れるフェニックス!』
フヒ、と三橋の口から笑い声が漏れた。
『よーし、笑えたな。念のために電源落として寝ておけ。明日行くから。』
「う ん。」
『よしよし。んじゃあおやすみ。』
「おや すみ な さい。」
電話が切れる。三橋はノートパソコンの電源を落とし、他のモノの電源も落とし…壁の横についている電源スイッチを落とす。これにより全ての周辺機器の音も消える。静寂が三橋のもとにやってくる。
車椅子をくるりと動かし、ベッドに移動するとパジャマを用意する。それにゆっくりと着替える。ズボンにはいつも難儀するが、それはもういい加減慣れた。
電気を消すと、部屋は真っ暗。今日は田島と泉もやってこなかった。新人さんと遊びに行くと言っていたから、まだ帰ってこないのだろう。もしかしたら泊まってくるのかもしれない。
そこまで大家が関与することでもない。と三橋は眠りについた。