「え?」
「うそ?」
水谷の指さした場所に、0と1がどこからともなく集まり始めていた。
0と1が次々と集まり、何か形を形成しだしている。
三人は固唾を呑んでそれを見守る。
「あれでもう、既に行動は開始されてるんだ。他の場所のハッキングとか…色々。」
水谷の言葉に田島と泉は言葉もでない。ありえない。
「二重でゴーグルでも何でも利用してるっつーのか?ありえねぇ。」
「オレでも考えつかねぇ。アレどうやってん?」
「オレでも分かんないから二人を連れてきたんじゃーん。」
0と1は複雑に入り組み、人型をとった。この形になる前でも、その最中でも。
「うわー、果敢にアタック決めてるヤツがいるー。」
蔓状、ロープにフック、投網、色々な形にして「それ」を捕まえようとしている。が。
「全部はじかれる?しかも相手が到着する前?」
不可視の壁ができたかのように、全てそれははじかれる。2カ所から、3カ所から、数カ所から同時にアタックされても、全て何か壁が出来たかのようにはじかれるのだ。
「田島、泉、これで見てみそ?」
水谷はようやく、といったていで立ち上げたガラス板みたいなものを手渡す。
「なんだこれ…!」
泉がそれを前に持ってきた…とたん、顔色が変わる。どれどれと田島も見て、おーっと声をあげている。
「苦労したんだよ。3回目でようやくそこまで見られるようになったんだから。」
水谷の作ったガラス板のようなモノは…「それ」が相手に対して出す壁を見るモノであった。
「全体を覆うよりか、小さい破片を組み合わせて瞬時に組み立て、シャットアウト?」
「それだけじゃないんだよ。その小さいヤツ、ウイルスとワーム付で、相手瞬時に感染。全情報とHD破壊系のウイルスがそいつの中に流れ込むってヤツ。で、情報は国ごとに解析、どっかのウイルス対策課とかに送りつけられてそいつら逮捕。…オレもこれでお前らに見つかったんだなぁ…とほー。」
水谷の言葉は必要な所以外全て無視して泉が呟く。
「一体どっちの味方なんだ…?しかし攻守同時にできる壁かよ…初めてみる…」
「ほへー」
人型になったそれは、ぎこちない動きで歩く。歩いて、歩きながら、0と1を分解させている。
「仕事が終わったんだな。」
水谷の言葉に二人とも「早っ!」と声をあげてしまう。それはすでに半分以上を分解させて、もはや人の形をとっていない。
最後の0と1の固まりも消え、もとの静寂な空間に戻ると、我先にと彼がいた場に群がる。
「少しでもあれの情報が残ってないかスキャンするんだって。…無駄なのにねー。」
「なんで水谷、良く知ってるんだ?」
泉の問いに水谷はにへらと笑い、「攻撃の一つになったこともあるし」と言い「アレを見て、気にならないヘビーユーザーいると思う?」とくすっと笑って二人と視線を合わせながら問う。
まぁ、そうだな。と二人は頷いた。
確かにあんなすごいモノを見せられた日には、こっちにも火がついちまう。
田島がそう言った。同感だな。と泉も言って、全員バラバラになってその場から解散した。三人とも、どこか知らないネットカフェからアクセスしたことになっているからだ。完全に違法である。
田島はにやりと笑うと、自分の意識を体に戻す命令を出した。瞬時にランダムにアクセスを繰り返し、そして…瞳を開けた。全てがオールグリーンになっている、バーチャル・ネット・ゴーグル。
それをぱちんぱちんと外してかぱ、と外すと、隣にいた泉と目が合った。
(あべ)
田島が声には出さず、そう口にした。あのガラス板のプログラムは花井の所より、阿部のほうが使えるだろう。
(正解!)
泉も口にした。早速指をポキポキ鳴らすとキーボードを打っている。
「オレの見立て、どーでした?」
水谷がにへら、と笑いながら問いかける。
「ああ、サイコーだったぜ。」
プリントアウトされた紙に、泉がポンと印鑑を押し、田島に手渡す。田島も印鑑をぽんと押して、丁度歩いていた栄口に「はい。」と手渡す。内容は9課二人による「推薦状」。栄口がへぇと口にしながらも自分のブースへと戻っていく。二人からの推薦状というのは珍しいのだ。もしかしたら初めてかもしれない。彼にそれだけの能力があったということだ。
「最高のカードだったな。」
人生の。と泉は付け加えようとして、やめた。
よりによって、瞬間湯沸かし器の阿部の課に推薦状を出したとなると、水谷の嘆きが聞こえてきそうだ。
「頑張れよー。違う課になると思うから。」
田島も人が悪ぃの。
思いながら、泉もニヤリと笑った。