泉 孝介の朝は、しごくまっとうに始まる。
 ベルより前に起きて、比較的ラフな格好へ着替える。顔を洗い歯を磨いて、ビミョーに生える髭(仲間はないだろうと言い張るが、あると言い張っている)を剃り、家を出る。行く先は隣の家。
 合い鍵を使って開ける。いい感じのいびきにベルの音が混じる。毎朝の光景。
「……田島。」
 布団にくるまって寝ている男の名前を口にして、泉は言い放つ。
「そろそろお前のソコを潰しても構わないよな。」
 右足があがる。靴下の色は白。まだ穴はあいてない。
「田島、起きろ。でないと…潰す。

「んがっ」

 殺気に反応して、田島の目がカッと開く。
「おー、泉、おはよー。」
 そのままむくりと起き出す。寝起きだけはいい。それは泉も認めている。だが寝過ごしは許さない。
「あと5分して下に行かないと、先に行く。」
「うわ、待って。待ってくれよ泉っ。」
 田島がどたばたと朝の支度を始める。田島も泉と同様、大学生以上、サラリーマン以下のラフな格好。歯を磨いて顔を洗って、髭そって、ぐしゃぐしゃの頭をとりあえず水で押さえて。
「よっしゃ!支度おっけー!」
「行くぞ!」
「おっけー!」
 リュック背負って、向かうは1階。彼らは有り余る給料を貰っていても、ここから出て行こうとしない。
 おんぼろではないけど、良い意味でも悪い意味でラフに作られたこのアパート。

 2階からの階段を駆け下り、101号室へと走り込む。ドアは合い鍵。
「三橋!おはよー!」
「はよ!三橋!」
 中からは美味しそうなご飯とおみそ汁の香り。
「お はよう! 泉く ん! 田島くん!」
 階段を降りてくる音で分かっていたのか、二人ぶんよそってあるドンブリにはすでに白米が。
「今日 は、焼きタラコ と、ひじき だ よ。」
 ウヒ、と独特な笑い方をすると、三橋は自分用の茶碗に盛る。……普通か、やや小さい。
「うぉー、毎日来ても三橋の作るご飯は美味そう!」
「美味そうじゃないんだ。美味いんだ。」
 田島と泉の言葉にまたウヒ、と笑うと、三橋はお茶碗を太もも付近に置いて、両手をうまく動かしてテーブルにつける。
「ちゃんとブレーキやったか?」
 泉が心配そうに見る。
「だいじょうぶ だ よ。」
 ほらほら、と上へあがっているレバーを見せる。お茶碗をテーブルに置いて、お箸をとる。

『いただきます。』

 田島と泉は椅子に座って。三橋は車椅子に座って。
 朝食を開始する。

 この3人の朝の光景だ。



1st. S E T