三橋の「飛ぶ」スピードは半端なものではなかった。3人分(プラスα)のデータをほぼ完全にひきずる形でこのスピード!三橋の前にはファイアウォールで作ったキャノピーが展開されており、漂っている、もしくは攻撃してくるウイルスを排除している。その数の多い事といったらこれまた半端ない。ファイアウォールが薄くなったら自動的に新たなものを張る。それを何度繰り返したか、速度に酔いそうになった泉がうへ。と一声ついた時、三橋の飛ぶスピードが落ちてきた。
「か、かい、会社だ、よ!」

 三橋がふぅ、と一息つきながら言った。座標が前来た時とは違う事に田島はいち早く気づいた。
「ここ、が、本社?みたいな所!」
 ウイルスが攻撃してくる中、三橋はいつもの口調。怖じけづく事もない、自然体。
「時間がねぇ!強行突破できるか?」
「…で、でき、ます…!」
『三橋たち!』
 そこに通信が入った。栄口の声だ。
「何だ?」
『花井から連絡。パソコン側のワクチンがほぼ出来た。今、田島と泉、阿部のに流し込んでいる。』
 おお!と声があがる。
『だからこっちのホームでも、強制ログアウトでもいいから生きて戻ってこいよ!』
 そうだそうだ!と沖たちの声も入る。
『三橋のパソコンは…花井でもシガポでもセキュリティが厳しくて開けられなかったって…』
「さ、触ると…全…消去」
 三橋の姿がぶれる。処理落ちだ。
『栄口!花井に緊急連絡!三橋のパソコン、うかつに触れると全データを削除するようになってると!』
『り、了解。西広…』
 ああ、うん。花井いる?三橋パソコンにむやみやたらに触るな!全データ消えるって!…仕方ないだろ?三橋ならうまくやる!そう信じなくてどうするの?
 西広が珍しく声を張り上げている。花井も恐らく相当驚いただろう。「あの」西広に怒鳴られるとは…
「良かったな、三橋…って処理落ち!?」
 泉の目の前にいるのはさっきから情緒不安定による処理落ちをしている三橋だった。
「嬉しいんだよな。」
 田島の声に、ノイズ混じりの三橋が小さくこくりと頷く。
「こ、こんな…」
「三橋!しゃきっとしろ!今から本社だ!行く前から処理落ちしてどーすんだ!馬鹿野郎!」
 短気な阿部がキレた。三橋はおどきょどとした後、すぐに処理落ちから立ち直った。
「行くぞ!」
 阿部が一歩を踏み出す。踏んだ場所から未知なるウイルスがにゅるりと顔を出すが、三橋特製の幾重にも巻き付けられたファイアウォールのどれかに反応してじじゅっと焼き切れる。
「ああ!」と泉。
「おおよ!」と田島。
 三橋は一つ頷くと、本社に向かって走りだす!

 三橋たちは幾重にも巻かれたファイアウォールの中を破りながら進む。全部のファイアウォールがウイルスによって侵されている、悪意を持ったそれを、4人はずんずんと進む。
 たまに三橋が立ち止まり、何か指を動かしている。その動作に他の3人は疑問に少し思ったが、三橋だからということで、ファイアウォールを抜けていく。

ぽん

 変な音がした。三橋が手を打った音だと気づくのに少し時間がかかる。

だが、次の瞬間…

 わっとファイアウォールが消えた。
「三橋!何しやがった?」
 三橋がとたんに走り出したので、会話がずれる。
「ハッキング…」
 この状況下で彼はとんでもない事をしていた。
「さっきの処理落ち…」
「う、うん。なかなか堅くて…」
 泉の声にうつむく。が、走る速度は変わらない…いや、速くなっている。
「全体掌握に何時間?」
 田島の声に三橋は首を振る。分からないようだ。
「ウイルスを拡散させて、いる …クラック…」
「それだけでも上出来!三橋スゲー!」
 田島と泉は三橋の言葉を変換できる何かを持っているが、阿部にはそれがなかった。よって話に加われずに「泉、アイツ何て言ったんだ?」としぶしぶながらも泉に訊ねる。
「走りながら本社の一部ハッキングに成功。ウイルスを散布している所をクラックして粉砕。」
「はぁ!?」
 阿部が愕然とした顔で先頭をつっ走る三橋を見る。手加減も容赦もなくなったのだろう。両手を盛んに動かし、…恐らくは本社乗っ取りを考えているのだろう。
「三橋!俺の容量も使え!」
 阿部が怒鳴る。怒鳴らない阿部は阿部ではない。と沖と巣山がため息混じりに会話していたのを泉は思い出す。
「オレのもいいぞ!」
「オレも!」
 田島と泉が次々と手を挙げる。
『三橋!』
 沖の声がインカムに入る。あいつらと筒抜けになっていた事を今さらながら思い出す。
「ひ、ひゃい!」
 いきなり名を呼ばれて急ブレーキ。引きずられていた3人は対処ができないものの、根性で倒れるようなヘマはしない。それよりか走って屋内に入る事が先決だ。
 『あ、慌てさせた?ごめん』と沖が謝る。
「う、ううん。…平気だ よ!」
 三橋がべしんと空中のキーボードにあるエンターキーを押すと、走っても近付かなかった本社がいきなり目の前に広がった。
『オレらの容量も使え、三橋!』
「で…でも…」
『なに、三橋の奢り3回でいいよ。』
 沖なりの励ましかたなのだろう。三橋も渋っていたが、ゴーグル組(水谷と浜田除く)のIDとパスワードが誰が作ったのか、音響カプラーの要領で三橋の手に転送される。
「いい の?」
 全ての行動を止め、三橋は問いかける。
『いいんだよ!三橋!オレらはここの見張りも出来ない。』
「そんなこと、な…」
『三橋!早く!無理矢理流し込まれたい?』
 栄口が珍しく声を荒げる。
 三橋も驚いて慌てて頷くと、全員の容量を借りて計算とプログラミング作業が始まる。全員の体が急に重くなり、良く分からないプログラミングがあちらこちらを飛び交う。
「あ、バグ発見…修正完了っと!」
 すぐに慣れたらしい田島が三橋のプログラムに早速介入している。
「三橋!ドア作った!」
「ドアの先は問題はねぇ。」
 泉、阿部が続く。
「三橋!行こうぜ!」
「う、うん!」

4人はドアを開けた。