花井からマーカーが送られたのはそれから20分も後の事だった。仕方がない。電話回線を利用してのダウンロードだ。時間がかかる事はこちら側も想定していたので、個人用のファイアウォールを設定していた。「会社」に入るにはこれだけの武装をしなくてはならない事にその場にいた全員が驚いていた。三橋曰く「まだ半分」とのこと。田島や阿部はバウムクーヘンの状態になっている。芯が自分。ウイルス用のファイアウォールが幾重にも巻き付けられている状態だ。
 三橋が何やらぽん、と空中に出現させて、4人に渡す。自分もそれをつけながら、「ヘッドセットないと、会話が出来ないくらいの厚さになる」事を語った。
 泉が水谷がごそごそと調整している中、何かをいじくっていた浜田が三橋とその場にいた全員に「日本で倒れたのは秋丸のサイトに移動していると本人から連絡。」
「個人を確定させてワクチンか。ネットが使えない状態だとパソコン側のワクチンはどうすれば良い?」
「秋丸のホームページで順次アップ!」
 花井の発言に浜田が切り返す。
「了解。既に問い合わせが殺到している。パソコン側は任せろ。」
「解析とバージョンアップはオレたちがやるよ!」
 栄口、巣山、沖、西広が言って互いに頷きあう。
「任せた!」
「任された!」
 田島と巣山がぱちんと手を打ち鳴らす。
「た、田島く…」
「おい田島!」
 三橋が次のファイアウォールを用意して待っている。
「悪ィ」
 動きづらい格好なので、三橋にたどり着くまで少し時間がかかる。圏内に入った途端に頭からコーティングされる。むくむくっとまた負荷がかかる。
 ふと、沖が気づく。
「三橋はその格好しないの?」
 阿部、田島、泉、水谷がバウムクーヘン状態になっているのに、三橋は普段着のままだ。
「お、オレ…ホーム、とリンク…して、平気!」
 田島が訳すところ、三橋用のファイアウォールはこのホームとリンクしており、随時変更がきくとの事。
「作った人の特権だ!」
 水谷が言うと、ぼそりと阿部が呟く。

るっせ、黙ってろ、クソレフト。

 …水谷はもう少しでログアウト態勢に入るとこまで落ち込んだ。
 「阿部のは何時もの事だろう?」と栄口が慰めにもなっていない事を言うが、水谷にはそれで十分だったようだ。
「水谷ィ、どのみちログアウト出来ねぇんだから腹くくれよ!」
 泉の言葉が水谷のハートを、本人曰く「毛なんて生えてない、つるつるのマイハート」にぐさりと刺さる。
「うう、オレなんかオレなんか…」
 しゃがみこんでののじ書いていても容赦なく三橋からのファイアウォールがふりかかる。
「三橋、あといくつ?」
 田島の問いにやや考えて「は、半分!」と答える。
 三橋は何かプログラムを作成しだしている。邪魔したら悪いな。と思いながらも、うまく曲がらなくなってきた右腕を動かしながら泉はこれからどうなるのか、能天気な田島の会話でもするか、と思った時

ガーン!

 凄い衝撃がホームにいた全員を襲った。

「三橋!今の攻撃でファイアウォールに2・5%のダメージ。復旧までに30秒!」
「え?威嚇射撃?」
 西広が驚きに満ちた顔で三橋を見る。三橋は冷静さを保とうとあたふたしている。
「次出すファイアウォールは?」
 見かねた泉が三橋に尋ねると「え、えふだぶりゅー254のえーからえる、ま、で!」と即答してきた。まだいけるな、と阿部が対パソコン用のチェックをしながら呟く。
「三橋、根性座ってるよな。」
 沖、西広、栄口がだだだとキーボードを打っては相互干渉がないかとかチェックをいれている。田島や泉レベルとは言わないが、それでも十分な速度だ。田島、泉、水谷も、チェックを入れている巣山とともにあーだこーだ言いながら修正案を出す。少しの攻撃ならめげない者たちがこの場にいた。
 何度か攻撃を受けているが、そのたびに振動が襲う。そんな中で全員が作業を行っていた。
「泉、チェックはいいから三橋のファイアウォールに!」
 田島の言葉に頷き、三橋の所へ行くと、こちらも凄い勢いで画面がスクロールしている。見る限り、新たなワクチンの作成であるようだ。
「泉、そこの表示されてる表がファイアウォール一覧。」
 忙しく手を動かしている浜田が指差す方を見ると、ずらりと並んだ一覧表と引き出し方、実体化の方法がこれまたずらずらと書いてある。
「水谷!手伝え!」
「おう!」
 二人がかりで最初はえっちらおっちらしていたのだが、すぐにそれも慣れ、次々にファイアウォールを重ね着していく。
「おい、このままじゃ本当にバウムクーヘンの芯だぞ!」
 阿部が焦燥感たっぷりに言う。ファイアウォールのコーティングは量が多い。
「あ、あと…圧縮!」
 この時ばかりは仕方ないのか、三橋が入力作業を一旦中止し、振り向く。
 部屋の中ではわいわいがやがやと大にぎわいだ。
 やることは違うけど、最終的な目標ははっきりしている。
 嬉しくて、少しだけ涙が出た。
 それを浜田に見つかって、ちょっとだけ笑われた。