水谷はようやく支給された机にパソコンをえっちらおっちら置いて、サーバーやら何やら設定して、バーチャルネットゴーグルの動作確認までいった。それで終業時間の18時。
「おっさきー♪」
「おつー!」
二人はさっさと切り上げると水谷を置いて帰ってしまう。時計を見ると18時3分。インスタントラーメンができあがる時間である。
「……歓迎会とかないの?」
思わずほろりとした所にぷっ、と誰かが笑う。
「えー、そこ笑うトコ?」
振り向くと、朝礼の時にいたかないなかったかな?という曖昧な記憶しかない男が一人立っている。
「仕方がないんだよ。田島と泉のアパートの大家さん、晩ご飯作って待っててくれてるから。はい、これがオレからの歓迎。」
たぷん、と茶の入ったペットボトルを手渡しながら「オレの名前は西広ね。ここいら一体の事務と経理の長だよ。」と言う。
「エンリョなくごちそうになります。へー、そんな美味い料理作ってくれるんだ。うらやましいなー。女の人?」
ありがたく西広「センパイ」からペットボトルの茶のキャップをペキンと開けて飲む。設置とかで予想外に体力を使っていたらしい。美味い。
「あ?二人の話だと男性で…両足が動かないから車椅子生活なんだって。」
西広はてきぱきと「明日からこのIDカードつけて」とか言いながらも説明してくれる。
「へー、事故とか?」
「それを聞くと、二人ともだんまり。水谷は明日からネット徘徊かな?」
西広の言葉に、水谷はうーんと顔をしかめる。
「そうだとおもいマスケド…」
はぁ、とあの自分よりも若い二人を思い出す。きゃっきゃっと言い合いながらもキーボードを打つ手は全く休んでいずに、なにやらプログラミングをしているのだが、ぱっと見、何を作っているのかわからなかった。
「あ、敬語ないのがうちの全体のウリね。オレのことは西広でいいから。」
「はーい。何も言ってなかったけどゴーグルはできあがったから。」
既にペットボトルの茶は半分以下まで減っている。本当に喉が渇いていたみたいだ。このままだったら西広と話している間に飲み終えてしまうだろう。
「まぁ、今日の所は家に帰ってゆっくりと休むのがいいよ。あいつらの真似してたら体力と精神がどんだけあっても生きていけないから。」
西広は「じゃ。」と言うと、自分の机へと帰って行く。帰り支度は出来ている。自分がいなかったら、西広も6時退社組なのだろう。ネットビジネスを売りにしている会社にしては残業が少ないように見える。次々と人がかえっていくのだ。
「はー、どうやら」
田島と泉はとんでもないやつららしい。
明日、前に使ってた時のハンドル聞いてみよっと♪とか思いつつ、水谷も帰り支度を始めた。