三橋が渡してきた注射器型のそれは、「あくまで暫定的なもの」という但しがついていた。 完全解析にはまだ時間がかかるらしい。
全員そのワクチンを流し込むと、何かがぽろぽろと落ちた。付着したウイルスが剥離したものだという事に全員が驚いている中、阿部が三橋に寄り、何か言っている。解析は得意だ少しオレによこせとか何とか…
田島と泉も解析作業とワクチン作成作業に入っているが、後者が全く追い付いていない状況だ。
水谷もはいはーい!手伝いまーす!と声をあげる。
受話器を西広に渡し、三橋たちの集まっている場所へと移動する。
「巣山、どうする?」
「できるかどうかわからないけど、情報収集してみようかと。」
「あ、それ乗った!」
栄口、沖が手をあげる。
三橋はこのスペース内で一番大きなディスプレイに次々に解析結果を出している。阿部と田島、泉がわいわい言いながらワクチンを作ろうとしている。
西広は花井と現状について双方で情報交換している。
現実世界のパソコンの復旧を早めと花井は言ったが、ネット上で動けない人優先という事で決まった。三橋が二人いる訳でもないし、現実世界のパソコンの復旧に関しては、花井と各課の社員に引き受けてもらうよう、西広はいつものテンションで花井を見事に言いくるめた。だが、その為にも三橋が解析しているデータが欲しいと告げた。
「三橋!花井の所にリアルタイムで解析データ送れる?」
「あと30分は無理!」
三橋の代わりに田島が答え、泉、阿部が頷く。
三橋は作業に没頭しているのか無反応。
「今までのデータは圧縮して暗号化して送った!」
泉が西広の電話に怒鳴る。
「オレのパソコンにか?電源がはい…入った!?」
「そこまでは進んでる!あとは花井に任せる!」
阿部が怒鳴る。ディスプレイに映し出されているデータを読みながら、キーボードを叩いている。
「今現在、意識が戻ってないユーザー、1000人!更に増える傾向!」
栄口が報告。
三橋を中心として、突如ここにネットワーク側緊急対策本部という名称が与えられ、花井側は現実側緊急対策本部というあまり嬉しくないけど、ちょっとかっこいい名前が与えられたのであった。
花井しか課長クラスがいない現実世界のフロアはそれこそ蜂の巣をつついたような状況に陥っていた。モモカン、シガポも他の部署からの問い合わせに大わらわだ。
「花井くん!ここでの行動は全て許可します。後で報告書お願いね。」とのありがたいお言葉を頂戴し、花井は一瞬だけ盛り上がったが、すぐに対応しなければいけない事に気づいてげんなりする。西広から随時連絡が入るので、電話をスピーカーにして、ながら作業となる。三橋側から簡易なものではあるが、致命的なウイルスにきくそれは、フロア全体のパソコンにすぐにまわされた。
田島らのパソコンは勝手に動いているので何故だと問い合わせると、三橋のパソコンだけ使わせるのはもったいないから!と返事がかえってくる。潜っている連中全員のパソコンも何やら作動しているので、何かをしているのであろう。
フロア全体のパソコンに全体メールを発送する。こちらは全員でパソコン側のワクチンを作成する事を。課は違えども、他の作業は後回しにして、全体が直るようなワクチンを開発しろと言い、自分も座席に着く。
「花井、珍しい。かっこよく見えるよ。」と冗談めかしで西広にスピーカーごしに言われ、ちょっと顔を赤くしながら「うっせぇ!報告しろ!」とやけくそになりながら送られてきたデータを見る。
こんな短時間によくもまぁ…と花井はため息をついたのであった。