三橋のホームは超サイバーな雰囲気満載だったのだが、その電話は何故か黒電話であった。プッシュ式ではなく、じこじこと回すダイヤル式。泉と田島が同じモノ使ってる!とはしゃいでいる。西広はそんな彼らを見ながらモモカンの内線番号をじーこじーこと回す。じーころころころ。
『もしもし?』
 出たのは篠岡。誰かわからない内線をとって困惑しているのがありありと分かる声だった。
「もしもし、篠岡さん?西広です!」
 外見はおんぼろ黒電話なのに、外の状況を鑑みるに何か細工を施してある。と思うくらい篠岡の声はクリアーであった。
「に、西広くん?」
 篠岡が驚きの声をあげる。さもありなん。只今絶賛行方不明の者からの連絡なのだ。
「はい。嘘ではありません。何でしたら篠岡さんの昨日食べた社食のメニュー言いますよ。」
「昨日あたしと一緒だったものね!部長に繋げます!」
 最後は少し掠れた声で、それでも篠岡は朗らかに言った。
 ややあって、珍しくも慌てた声のモモカンが出てきた。西広もほっと息をつき、矢継ぎ早に訊ねてくるモモカンの質問に答えた。
 ひととおり話した後、モモカンが三橋との会話を望んだ。
 西広は振り向いて三橋のほうを見たが、田島、泉、阿部と共にデータ解析を行っている。田島と阿部があーだこーだ言う中を泉が上手く仲裁に入り(非常に面倒臭そうだが)、三橋に案を伝えている。水谷もたまに突っ込みを入れているが半分以上無視されている(主に阿部から)。
巣山と沖と栄口は固まって何か話している。
「三橋!今かわれるか?」
『無理!』
 三橋が答える前に、阿部、田島、泉が同時に答えた。画面は理解の範疇を越えたコンピューター言語がずらりと並んでいる。何をやっているかもわからない。
「泉!」
「了解。」
 田島と阿部に騒がしくすんな!と注意してから軽く走って西広のもとへと来る。
「電話、モモカン。」
「サンキュ。…かわりました泉です。…はい。三橋のホームから出られない状況で…」
 泉の言葉を聞きながら、今更ながらとんでもない事になっているんだと西広はしみじみと感じたのであった。

 エロデータないの?エロデータ!と勝手にファイルを検索しだしていた田島の首根っこをおさえ、泉は三橋と阿部から情報を聞き出す。わからない三橋言語の通訳をしないと、阿部はたちまち怒りだす。瞬間湯沸し器とは良く言ったものだ。最初にそう言ったのは誰…ああ、栄口。なるほど。と勝手に納得しながらも泉は田島を加え、三橋と阿部の会話に入っていく。途中モモカンへの報告があって、泉が中座したものの、その間に栄口が入り、良くわかっていない者に説明を。と求めた。
 三橋と田島は解析にまわし、阿部と泉が説明にまわる。
 単純に言えば新しいウイルスが撒き散らされた事。ならすぐに解析してワクチン作れば良いのでは?という巣山の問いに「それだけなら9課のエースがわいわいしながら解析してねーよ。」と返した。
「今まではパソコンにならパソコンに。バーチャルネットゴーグルには…と分離していたウイルスが、合体して更に凶悪化しやがった。」
 全員がごくりとつばをのむ。
「症状はバーチャルネットゴーグル上では麻痺、酩酊などの障害。パソコンでは異常を感知しても自動的に肉体に帰る事ができない。その間に個人情報ごっそり。」
「お、オレらは?」
 沖が不安丸出しの顔と声で問う。
「オレらは中途半端に感染。どうやらフィールドを形づくっていたもののどれかにワクチンもどきがあって、麻痺とかの症状起きてねーだろ?」
 ああ、うん。と話を聴いていた全員が頷く。
「三橋と田島はその洗いだしとワクチンを作り出す作業。」
 なるほど。と頷いたところでレトロな音がした。ちりりりりりん♪というチープな音に全員がびっくりするが、すぐに恐る恐ると西広が再度受話器をとる。
「水谷、花井から入電。」
「あいよ!」
 ガチャと音をさせて受話器を軽い気持ちで持つ。
「はいはー…」
「無事なんだな!」
 すこし離れた場所にいた泉にもその声は聞こえた。三橋もヒィィィッと叫んで田島に宥められている。
 後ろのほうで篠岡が「花井くん、落ち着いて。」と声をかけられている。
「ここにいる全員はひとまず無事だよー。」
 耳がぐわんぐわんするとこぼしながらも水谷は花井に今の状況を説明しだしたのだった。
 水谷が説明している間に、しゃかりきになってワクチンを作成していた三橋も完全に説明するはめとなった。なぜ電話が通じるのか。とかがメインだが、様々な質問が他のメンバーから次々と放たれる。
 その中で解答したのは電話について。
「で、電話回線。」
 あ。と全員が声をあげる。三橋というハイテクな者を扱う男がまさかそんなアナログなものを使うとは誰も思わなかったからだ。
「き、緊急用!」
 光回線より段違いにスピードの遅いそれを未だに使用しているヤツがいるなんて…と後に花井が呻いた。 音響カプラーも持っていると言おうか迷ったがやめた。これ以上話をしていると一刻を争う作業に差し障りが出てくる。
「えーと、回線速度がこうだから…」
 巣山がぶつぶつ言っているのに沖が気づく。水谷は花井から現実世界の状況を説明されながらちゃっかり三橋のルームデータをいじっている。三橋が気付いたら驚くだろうが緊急時だし、正直他人のデータ見たいし…といじくるうちに、花井側のほうに動きがあった。バーチャルネットゴーグル使用している者たちのほぼ全て、またネットを使用しているユーザーの半分がウイルスに感染したらしいという曖昧な報告だが、それでもネット人口を考えてみたら恐ろしい数にのぼっている事がわかる。
「花井!」
 突然巣山が叫んだ。なんだ?と思わず全員が見ると、花井とフロアの様子が写真として表示される。画像は荒いがめちゃくちゃな状態になっているのはわかる。
「西広先生…やっぱりすごい。」と沖が呟く。巣山のアイデアで西広と沖がさっと作ったのだ。
「こっちもデータのプール場所を確保したよ。」と水谷。
「ぜ、全員…とりあえず、わ、ワクチン…」
 三橋がくるりと振り向く。
 阿部はにやぁりと笑っている。
 田島は微調整を行っている。

わっとその場にいた者たちから歓声があがった。