「ども。水谷文貴でっす。」
 へら、と笑う姿は、アンダーグラウンドの世界ではぽつぽつと名の知れた者には到底思えない、取っつきの良さと笑い方だった。
「というわけで。水谷くんはしばらく9課に配属、ということで。…花井くん。」
「はい。」
「席は午前中には来ると思うから。あの二人の隣にまずつけとくから。田島くん!泉くん!」
「はい!」「はい。」
「これからあなたたち、またセンパイなのよ〜。」
 うふふふ〜と笑うモモカン。怖い。
「水谷くん、分からないことがあったら、二人にどんどん聞いてねvじゃあ解散。」
 あっさりと朝礼は終了。各自席へとつく。水谷はまだ机が支給されていないので、先に支給されていたバーチャルネットゴーグルをいじっている…もっと詳しく言うと改造している。
「おーい水谷、お前、ソフト何つかってんの?」
 自分のゴーグルと水谷の手で少しずつばらされていくゴーグルを見ながら田島が問う。
「ああ、えーとフリーソフトとシェアとその他?無論パチあてで。自作も少しあるかな?」
 後者のほうはどこから手に入れたのかあえて聞かない。自分たちもやってきた道だ。
「申請すっと、大抵は許可おりっから。ここの課はな。」
「え、そーなの?」
「そうだよ。」
 カチャカチャとキーボードを動かし、水谷の方すら見ていない泉が言う。
「今まで十人くらい、9課に来たけど残ってるのオレらだけだから。」
「それはどういう意味で?」
「ま、水谷はゴーグルの改造が簡単にできるという点では合格か?まずは。」
「そだな。パソコン支給は…と。オレの机に乗ってるし。」
「気づくのおせーよ田島。」
「るっせぇ。…っと。そこでセットアップしちゃえば?ここでのルールは一つだけ「正規品を扱う」。」だ…よな?泉。」
「そう決めたのお前だろ?」
「そうだっけ?」
「…るっさい。オレは先に行ってるからな。」
 さっさと椅子を倒すとゴーグルかけて、意識をネットに潜らせる泉。「うわずっこい!」といいながらも水谷とくっちゃべる田島。どうせヒマだしなー。といいながら水谷のパソコンのセットアップを手伝っている。
 二人がかりでのセットアップ作業はあっという間に昼で終わった。アラームをセッティングしていたらしい泉が頭を振りながら起きあがる。
「メシ。今日こそランチ。」
 ガキポキペキパキと関節を鳴らしながら泉が言う。目が真剣だ。
「社食にすっか。」
「おぅ。」
 水谷も来い。と泉がさっさと歩き出す。田島はとっくに先を歩いている。
「お、おう。」
 ちょっと振り向くと、席の半分以上は誰も動かない。キーボードの叩く音や内線電話の音のみ。
「泉、今日の成果は?」
「軽くぶらりだからねぇよ。」
 三人は24階にある社員食堂へと向かう。
「おおっ!今日のAランチはブタショー!」
 泉が入り口に掲げられた「今日のランチ」を見て喝采をあげる。社食の豚のショウガ焼きは美味い。しかもご飯を大盛りにしてもおかわりしても無料。
「うわ美味そう!」
 田島もそれにはすぐにのってくる。じゅるっとよだれをすする音まで響く。
「Bランチの麻婆豆腐も捨てがたい。」
「いや今日はブタショーだろ。」
 やいのやいの言いながら、列へと並ぶ。
 午後からは、水谷が動けるかどうかの確認だ。その前にはカロリー補給。
「くぁーっ!うまそう!」
 田島が大声で言って、がっつりとひんしゅく買う前に、泉が後頭部をはたき、水谷は知らない人に変化した。

 意外とうまくいくかもしんない。