叶がわざわざアメリカから来たのは、三橋を連れ戻す半分、商談があったかららしい。織田が散々急かし、名残惜しさ満々の叶をハイヤーに乗せ
、あわただしく次の場所へと向かっていった。玄関まで送った全員は、三橋を除く全員がはぁ、とため息をついた。嵐が去った。と花井が呟いて、
栄口がそれに深く頷いた。
「さあ!戻って仕事しごと!」とモモカンが手を叩きながら言ったが、全員のテンションはいまいち上がらなかった。
「仕事にならないのは…」
モモカン、手をわきわき。
「握るわよ。」
全員のテンションはおろか、恐怖心まで一気に上がった!
「急げ!」という感じでわーっと社内に戻る部下たちを見て、モモカンは楽しそうに口元を動かした。
「これでまず一段落かしら?」
泉が三橋の車椅子を押している。横に田島がいて、周囲に課長軍団がわいのわいのとやっている。
何年かの付き合いのような仲の良さに、モモカンの笑みは一層深くなった。
全員が戻るとブーイングの嵐。最終戦一歩前の寸前だったのだ。いたしかたがない。部下たちはいきなり次々と「オレたち負けまーす!」なんて言い出し、課長クラスのみが争う事が発表となっていた。もはや仕事なんて二の次。課長クラスの者のみが残っているのだ。気分は運動会である。もしくは競馬ななんか。オッズがすでに決められている所を見ると後者だろう。
「やるか?」
早速気分を切り替えた田島が三橋と泉に問う。
「う ん!」
「もちろん!」
力強く頷く二人に、他の面子も切り替えていく。
「三橋、研究室からのアクセス?」
「そ う!」
三橋はゆっくりと車椅子を押してエレベーターへと進む。
「決勝戦まで残ったヤツ!潜る準備!三橋が合流したら始めるぞ!」
おお!という声が響き渡った。
三橋が去ると、とたんにざわざわしだすのは仕方がない事だろう。「あの」叶が三橋ご指命で突然やってきたのだ。
一応課長や水谷から簡単な説明を受けていたものの、百聞は一見にしかずというものだ。驚くものは驚く。
「凄腕かぁ…」
全くそんなふうに見えなかった。そうだね。等との会話があちらこちらで聞こえる。課長たちはそれぞれバーチャルネットゴーグルの準備をしだ
す。田島と泉は慣れたものでひょいひょい繋げているが、他の者たちはうんうん呻いている。
研究室へ戻り、できうるかぎりの速さで三橋が降りると、格闘していてもう少し時間がかかるとの事で、西広を除く全員が既に揃っていた。
「おせーぞ三橋!」
田島が早速飛びかかってくる。正面から受けて三橋はそのままべちゃっと尻餅をつく。この後の展開は…
『こらぁ!田島!』
泉は頭を。他は尻を蹴る(何人か除く)。
「いーだろー!別に!」と田島が三橋から退き、立ち上がるのに手を貸しながら答えると、『良くない!』と言う者とまたもや頭、尻を殴る蹴る者
に別れた。さすがに痛かったらしい田島は三橋に見えないようにぶつぶつ言っているが、全員で無視。
三橋は、というと、ぽやっと立ち尽くしてどうすれば良いかわからない。といった状態。沖が恐る恐る迎えに行く。
西広は慌てて繋げている。一般人よりかはバーチャルネットゴーグルの使い方には慣れているはずだが、部下や同僚の視線や何やかんやでなかな
か指が動かない。また、ケーブルの量も半端ないどころか接続端子が半端でない。田島たちは5分で潜れたが、西広が潜ったのは15分後だった。
西広が潜ると、スタンバイしている課長たちと水谷、田島に泉、そして三橋も既にスタンバイしていた。
阿部と花井の指示というか、阿部に関しては命令に近い口調で三橋にあれこれ指示している。三橋も半泣きになりながらもきちんと作業を行って
いる。
決勝戦はほぼ無限エリアで行うとは聞いているが、どのようなものが出来上がるのかは聞いていない。
中継モニターも、そしてスタンバイしている者たちも、今か今か、と待ったのである。
「さて、決勝戦。」
全員が見える所に集合したところで花井が話を始める。
「泣いても笑っても最終戦なんだが、まず…決勝戦の場所を全員で作る。これは公平を期すためだ。」
「うわ。」「苦手…」とか声があがるが、花井はすんでのところ無視。
「この場所はやはり無限であって有限だ。」
「トラップ仕掛けるのはありか?」
でたよ阿部!
「トラップ…死なない程度ならいいんじゃない?」と栄口。えー!と数は?ウイルスありか?と物騒なことを言っているのが半分。
「わかった。なら、作るエリアでトラップを仕込んでよし。数は…」
「無制限。はい、決まり。」
阿部の言葉に花井を含む何人かが硬直。
「水谷みてーにならなきゃ平気だろ?」
自爆男の異名をこの頃つけだされている水谷はそれにはきゃんきゃん反論するが、阿部、ガン無視。
「じゃあ、全員で場所を決めるぞ!ああ、ウイルスはなし。ワクチンが必要となるトラップはダメだ!」
りょーかーい!と泉、田島から声があがる。やるつもりだったのかと冷や汗かきながら、花井はエリアの図面を空間に引き出した…。