花井は勿論、課長クラスの者たちは全員勝ち抜け、少しの休憩となった。阿部と花井に栄口と勝ち残った部下がついて、違うタイプの上に先ほどよりも広いフィールドを設定しているのだ。
「三橋!」
 待機している場所で、なにやらごそごそしていた三橋に田島が話しかける。

びっくーん!

 そんな効果音が聞こえてきそうなくらい、三橋は飛び上がって驚く。
「三橋…おーい!」
 驚きのあまりグラフィックが処理落ちしだす三橋の姿に構いもせず、田島が口を開こうとすると、泉が頭をかぽっと殴った。言わずもがな、グラフィックに変換されていても、頭は急所である。ぼかっと気合い入れて殴らなかったのは、そのダメージは直接脳へのダメージとなるからである。そのダメージとして、頭を殴る時はダメージを計算しながら殴るので、なかなかの高等テクニックである。周囲が引くのも無理はない。処理落ちしていた三橋もだが、沖や西広は言わずもがな、水谷までヒいている。
「いってーな!今のでいくつノウサイボウが死んだと思ってんだよ!」
 頭を押さえながら田島が泉にいいつのる。
「三橋のほうがダメージ高いからだ。」
 まずノウサイボウという単語をお前が知ってる事が奇跡だ。と泉は続ける。周囲は完全無視。三人の世界だ。
 「ちぇっ」と田島が頭をさすりながら少しずつ処理落ちから戻ってきている三橋をみやる。
 三橋はゆっくりと己を取り戻し、田島と泉が見ている中、ようやく姿を取り戻した。座りこんでぜーはー言っている三橋に泉が真正面にしゃがみこみ、元に戻るのを待って「大丈夫か?」と話しかける。今度は処理落ちせず、びくりとなっただけで、ややあってから「へ、へーき」という答えがかえってきた。
「田島、謝れ。」
「おう。三橋、悪かったな。ゴメン。」
「ヘイキ だよー」
 三橋もいつもの口調に戻ってきている。
「で、三橋、さっきの解析、どのソフト使ってんだ?」
 今まであった事をすっかり忘れて教えろー教えろーと田島が騒ぎだす。泉も止めない。興味があるからだ。ふと見ると、全員が自分たちを見ている。よほど三橋の不可思議さがわかったのだろう。
「じ、自分!」
 そこまで言ってでへーと項垂れる三橋に田島の顔はぱっと明るくなる。
「三橋お手製!すげぇ!」

それだけで分かるのか?

 泉を除く全員の目が語っていた。泉も理解したが、三橋の言語は独特なのである種のフィーリングで理解する必要がある。全員…阿部や花井、栄口を含む者たちの視線を楽しげ自慢げに泉が言った。
「そのプログラム、オレらにも使えるか?」
 回答は「わかりません」の切れ切れの声と表情である。まだ少しノイズが混ざっている。どれだけ負荷をかけたのか泉が首をかしげる。
「みーせーてー」と田島が騒ぎだす。止める者は誰もいない。
 三橋はどうしよ、どうしよ。と思いながらも手は自然とプログラムを見せる為、空中へと動いていた。


 三橋お手製のプログラムは、三橋が使いやすいように作られていた。出来映えは完璧。作業を中断までしてきた阿部を唸らせ、花井を驚かせた。
 田島も泉もこれは取り扱えないと言い切った。それほど三橋のプログラムは変化にとんでいて、見せてもらった者たちを驚かせたのだ。
「オレも手製のあるけど、これほどじゃない。」と田島は言って、三橋、スゲーな!と称賛した。対する三橋は「た ちあがり は、遅い、です。」と恥ずかしそうに言った。ぴゅいっと指先の一部にノイズが混じる。照れくささでも処理落ちするらしい。どんだけの常駐ソフトを入れているのか聞きたいが聞けない。全員うずうずしたが、そこに「おい、次の対戦メンバー決めだと。」と巣山が恐る恐る揃っている面々に話しかけてきたのでお流れとなってしまった。
 「まだフィールド作りあげてねーよ!」と花井が慌てると、阿部が三橋に手伝えと言ってきた。三橋ならこのフィールドを理解するのは早いだろう。
「え、お、オレ?」
「問答無用。」
 阿部と栄口に両腕を掴まれ、ずるずると三橋は連行された。
「最後は何人まで絞られるんだろ?」「さあ?」と水谷と泉がのんびりと会話を開始する。それにつられて他の面々もわいわいと話し出す。
 三橋は阿部にどやされながらも手伝っている。半泣きになりながらでもきちんと良い仕事をしてしまうのは三橋たる所以だろう。
「水谷と一緒!」
「げっ!マジ?」
 早くも田島から声があがっている。
「西広、巣山、沖と一緒…」
「ウソだろ泉!」
「本当か?」
「三橋たちのぶんもひいといてやろうかー?」
「今終わったから行く!」
 花井が走りだすと、真横から気配がすり抜けていった。
「え?」
 見ると三橋が何でもない顔で抽選のくじをひいている。 さすがに速さに驚いた何名かが自分と阿部を見て口をぱくぱくさせている。
「…ンの野郎…」
 上等だ。と阿部の闘争心に火がともる。
「はぁ…。」
 花井がため息をつく。こうなった阿部を止めることはもう出来ない。
「見とれてないで急いだら?」
 栄口の言葉にはっとなって走りだす。

 厳正なるくじ引きの結果、花井、阿部、栄口、三橋は同じグループとなったのである。


 
 課長クラスの者たちが同じフィールドで戦うということで、見ている側は大騒ぎであった。広くなったフィールドに、泉をはじめ、各課長の面々が姿を見せると、ネット上にいる者いない者たちからわっと歓声があがった。西広、沖、巣山は先ほどの1回戦で自分のマーカーを守りきる事で残った反面、泉は積極的にマーカーをとりにいった事がある。1回戦で残った面々は既にびびるか好戦的になっている。1回戦で負けた者たちは、モモカンとシガポの命をうけ、決勝戦用のフィールドの基盤を作り始めた。無論、手は休み休みだったが。
 泉は自分の持っているプログラムを確認しながら獲物を確認し、ふふと笑う。
 あらかたの命令を終えたモモカンが、いよいよマイクを持つ。
「いきます!5、4、3…」
 めいめいがわっと自分の位置に色々と対策用のアイテムを置いたりしている。三橋の壁みたいな上級な物は作れないが、それでも1回戦を戦い抜けた猛者たちである。
「2、1…スタート!」
 泉があり得ぬ速さで駆け出した。まだ防御のアイテムを作り終えていなかった者たちがターゲットと思う間にマーカーを奪取されていく。いつもはおとなしい沖や西広、巣山も攻撃に転じている。西広は防御アイテムを置いた者たちのアイテムを既に解析したらしく、クラッシュさせながらマーカーを奪っていく。沖と巣山はマーカーを奪いにきた者たちをいなしながら反対に奪っている。
 開始1分を過ぎると、課長クラスの者たちしか残っていなかった。
 さあ!どうなる?と誰しも思った瞬間にモモカンの終了コールが入った。10人以上いた者たちは消え、4人しか残っていなかったのだ。
「決勝戦でな!」
「おお!」
 泉たちは互いの拳をぶつけ合って、勝利を祝った。


 泉たちがどやどやと戻ってきた時、田島と水谷が笑い合いながらフィールドに移動する所であった。
「お、泉たち、お疲れ〜」
 田島がひょひょっと手を振る。泉たちも振り返すと二人は笑いながら「オレら、攻撃に徹する事にしたから!」と言い切った。
「田島はともかく水谷も?」
 巣山の言い分は尤もだ。水谷というと肝心な所でドジを踏むので、今回も防御に徹すると思っていたのだ。
「水谷もあの時からセイチョーした所を見せたいんだと!」
 ニカッと言って笑う田島に沖たちは苦笑した。水谷の入社した経緯を知っているからだ。
「課長たちの胸を借りる?みたいな感じで。」
 水谷も笑いながら補足する。
「まあ、水谷レベルならな。」
 容赦ない泉の発言に田島が吹き出し、他は苦笑した。
「ま、頑張れ。」
「おうよ!」
 言いながら二人はフィールドへと向かった。

 フィールド上は既に殆どの者が揃っていた。残るは自分たちだけだったようだ。
 「田島くん水谷くんも来たようだから初めるわね!」と何処からともなくモモカンの声が降ってくる。田島と水谷は笑いあうと、表情を変えた。肉食獣のそれだ。
「5、4、3、2、1…スタート!」
 瞬間、田島と水谷の姿が消えた。
 え?と戸惑っている他の社員が気配を感じて見ると、自分が所持しているマーカーはおろか、自分が守らないといけないマーカーまで消えている。
 10秒カウントが入って見回すと、同じ動作をしている同期と先輩がいた。田島と水谷は?と見回すと、彼らはあちらこちらを走り回っているのがギリギリ見える。あの速度は反則だ!とぽかーんと突っ立ち何もできないまま、敗者のエリアに強制移動された。

「田島、どうよ?」
「スゲーな。頑張ったんだな。」
 素直な返答にてへ、と水谷は照れる。フィールド上には彼ら二人しかいなかった。20秒後の事だった。
 流石のモモカンも苦笑しながら終了を告げる。田島と水谷、ハイタッチ!
 巣山たちが驚きの顔で最終戦の控えゾーンにやって来た二人を出迎えると、二人仲良く「最終戦に出たかったからタッグを組んだ」と言い出した。田島の速度に水谷の作り出したくっつくアイテムを使用し、田島が一人のマーカーを取り、その直後にマーカーを探し出した水谷がそれを奪う。連携プレーを速攻で行ったというのだ。
 「連携プレーに関して全くルールになかったし。」あははーと水谷は笑いながら言う。田島のあのスピードについていけるプログラムを開発、発展させたことは全く言わない。泉も何となくわかったのであえて突っ込みを入れなかった。影の努力は誰しもやっている事だ。特にこのバーチャルネットゴーグルを使っている者なら尚更。
 それよりも。全員が次の戦闘が気がかりでしょうがなかったのもある。
 次は花井、阿部、栄口、そして三橋が出る。注目の一戦なのだ。
 既に全員がフィールド上に上がっている。三橋はまた無表情プログラムを使っているようだ。不自然に表情がない。全員がカウントを待ったが、ない。ネット上の者たちがわあわあ言い出した時、モモカンから連絡が入ったのであった。



 三橋とモモカンの間に一本のラインがひかれる。ネットワーク上とパソコンでの対個人用の緊急ホットラインだ。
 無表情の三橋は一応そのアプリを解除して恐る恐る会話をしたが…
「なんか三橋、処理落ちしてねぇか?」
 田島の疑問にそこにいた全員が頷く。
 阿部がそーっと三橋の近くに寄ろうとしているのを良心の固まりである花井が懸命に、賢明にも止めている。
 処理落ちはその間にも進んだが、最後の一言「わ かり、ました。」の言葉と共に、三橋は消えた。ネットワーク上から消えたということはすなわちログアウトしたことになる。
 何が起きたんだ?とざわざわしていると、モモカンから天の声が降ってきた。

一端全員ネットワークからログアウトすること。

 何故?Why?としていると、モモカンからではなくシガポから連絡が入る。

「バーチャルネットゴーグルの開発元の会社社長が来たんだ。」
 一番動作が早かったのは田島。続いて泉。課長連中にあたふたしながらも水谷。
 全員が一斉に現実世界に戻っていった。