昼休み、田島と泉のしている作業が一段落ついて、また自分のところに戻れると嬉しい報告があった。研究室に二人がひょいっと顔を出し、わいわいと仕事内容で話していたら、田島が急に立ち上がった。
なんだ田島と訊いてみると、まだ三橋と勝負してねぇ。と言い出した。確かに以前勝負に勝ったら全てを教えてもらう約束を取り付けてある。それを今突然言い出すのが田島が田島たる所以だろう。
泉は忘れかけていたが、田島の言葉で一気に再燃した。
「三橋!」
三橋はきょどん、とした後にわたわたしだした。
「お、オレ、と?」
「そ。お前と!」
田島がニカッと笑う。泉も楽しそうな笑みを浮かべている。スタタンタンとキーボードが打たれる。軽快なそれはおそらくモモカンへ直行するメールなのだろう……
「も、モモカンに…」
「今泉が了承…とれたな。」
泉のオッケーサインに三橋はがくりとなった。一日でこんなに忙しい日もまた珍しい。
「よっしゃあ!燃える!」
鼻息荒く田島が拳を握る。その時内線が鳴り、この中で真ん中くらいに燃えていた泉がぱっと受話器を取る。
「……え?あ、はい。はい!分かりました!」
燃えていた田島と、困っていた三橋。二人が泉を見ると、困惑しきりの顔をしていた。
「何だって?」
田島がきくと、泉が唸りながら答える。
「課長どもと有志参加だと。」
へ?と二人がワケわかりませんという顔になる。
「ルールは阿部と花井が決めると。メールをモモカンがフロア全員に転送して、バーチャルネットゴーグル持ってるヤツは殆ど参加!という感じになってると。」
「田島!泉!」
そこに聞き慣れた声が乱入する。水谷だ。水谷は三人をぐるりと見やると楽しげに笑う。
「なんだ?」
いぶかしげに泉が代表してたずねる。三橋に至っては「み、水谷 くん?」とまだわふわふしている。
「鬼ごっこ、メンバー集めにフロアー集合。じゃんけんで決めるって。」
『何だって!』
二人の声がハモる。三橋は。
三橋は。
「お、おおごと、だ。」
一人混乱していた。
三橋ら三人がフロアーへと行くと、いつにない騒々しさがみちみちていた。
「田島!泉!負けねぇからな!」
そーだそーだと声があがる。は?と二人が顔を見合わせると、篠岡がぱたぱたとやってきた。
「しのーか、どうなってん?」
「うん…田島くんのネット上の発言がまず花井くんに火をつけて、三橋くんが出る、てわかったら、阿部くん。止めようとした水谷くん。…あとは芋づる式。」
バーチャルネットゴーグル使える人、全員参加みたい。と苦笑気味の篠岡に二人して困った顔。三橋はワケわかりませんとおふおふしている。
「予選、てヤツ?」
泉がニヤリと笑う。コトは大きくなってしまったが、やることは鬼ごっこ。三橋と対決するにはそれなりの段階を踏まないといけないのか。田島もわかったらしくにぃっと笑っている。
「なら、各課で課長とガチ勝負して上位何人かとオレらが勝負。勝ったのが三橋と勝負。」
それ賛成!と至るところで声があがる。ルールがまだ発表になっていないので、あーだこーだ言っている阿部と花井が使っている会議室をちらりちらりと全員が見ている。
「ぜってー三橋と鬼ごっこ!」
泉と田島は頷きあうと拳をゴンと打ち合わせた。
「うわ、何か余裕綽々!」
水谷が声をあげる。栄口はバーチャルネットゴーグルのソフトウェアの確認を初めている。大きな作業が完了したからか違う理由なのかはわからないが、テンションが異様に高いのは分かる。三橋は良くわかっておらずにまだおふおふしているが、少ししたら誰かから説明を受けるだろう。
こうして部内バーチャルネットゴーグル鬼ごっこ予選が開催されるはこびとなってしまったのである。
ルールに関しては、花井と阿部が既に作り上げていた。その早さに対し、そこにいた全員がその情熱を胃痛と怒りに回すなと思った。
一人二つのマーカー。二つ以上持つ事。1個の場合はアウトにならないが、ゲーム終了時に自動的アウト。2つ取られた者は10秒経過すると自動的に敗者ルームに転送。
「阿部にしちゃあいやらしいルールじゃねーのな。」
田島の呟きにバーチャルネットゴーグルの設定を完全に確認した栄口がぷっと笑う。
「何だよ栄口!」
「だって『あの』阿部だよ?花井を抜きに、何か抜け道を作っているに違いない。」
まあ、確かにと田島が頷く。
「残り10秒で田島ならどうする?」
「解析して泉やら誰やらにデータを…あ。」
「そういうこと。情報戦にもなるんだよ。」
「何の話し?」
ひょい、と間にわけいったのは、沖と西広である。
「今回も阿部はいやらしいという話をしてたんだ。」
栄口の歯に衣を付けない言い方に二人は苦笑するが、「今、巣山ともその話してた所。」と近くで泉と会話している巣山を指差す。三人の視線を感じたか、二人が振り向く。
「阿部はやっぱり阿部だな。」
巣山も苦笑を浮かべている。
「第一回戦は狭いフィールドで行って、最終戦は無限フィールドらしい。」
「狭さにも幅があるからわからないけど…」
西広がうむむと考えながらの発言にうんうんとその場にいた者は頷く。
「あと、一回戦から三橋も参加だって!」
やっほーい!と水谷が分け入る。
「本当に?ガセじゃなくて?」
「本当に本当!モモカン命令が発動したの見たもん!」
「クソレにしちゃあ上出来!」
泉がばんばんと背中を叩きながら喜ぶ。水谷の背中はモミジスタンプ状態だろう。
「痛い!」と泣きながら栄口に助けを求めるが、栄口はそれを笑顔でかわす。
「これから何番になるか抽選だぞ!」
どうやら準備が整ったらしい。花井が話しの輪の中に入ってくる。
「勝っても負けても…」
「いいっこナシ!」
田島と泉は右手をぱちん!と打ち合うと、並び出した列に入るのであった。