幸いにも、課長ら目立った者は2人ずつバラバラになり、第一回戦が始まった。小さなプロジェクターから映し出された大きな画像は、既にバーチャルネットゴーグルを作動させ、潜っているメンバーたちである。解説はそこら辺の者ひっつかんで。判定はモモカンと居合わせたシガポに。
「5秒後にスタート。4、3、2…」
全員が息を呑む。この中に水谷と巣山がいるのだ。初回5試合あるそれは、早速賭けの対象になる。胴元は早速オッズを弾き出している。
「…1…始め!」
わあっと中の者が一斉に動いた。
「処理落ちした者から奪われて脱落してますね。」
言ってるそばから脱落者。
10秒後に、通過した5人が発表された。その中に、無論、と言おうか、水谷も巣山の名前も残っている。巣山は安定した動きで。水谷は逃げ回る事で生き延びた。
やっぱり違うなぁと言い合いながら、次の試合を見る。
次の試合には、花井を唸らせ、阿部が騒ぐ、噂の男、三橋なのだ。同じフィールドに沖が立っている。
三橋の画像は、いつもと全く違う、立った姿で、無表情だった。それだけでも何か不気味さを感じた。
三橋は何かしているのか、きょろきょろ見回しながら、空中に何か打ち込んでいる動作を繰り返している。
モモカンのカウント3の時に、三橋の動作が止まった。
2、1、スタート!とモモカンがコール。沖は巣山のようにスムーズに動き、他の者たちは三橋に一つでもマーカーを付けようと襲いかかる!
だが。
全員がざわりとなった。三橋に誰も触れられないのだ!
「花井課長、解説をお願いします。」
ネット上からその様子を見ていた水谷が隣にいた花井に意見を求める。花井も色々と調べた後、はぁ、とため息。
「三橋はあの短時間でマーカー属性とフィールドの枠を理解して、それを受け付けない壁を展開した。」
「それだけ?」と速攻で作ったマイクを花井に向けると「水谷ウゼぇ」とのお言葉をたまわった。
「その間に…沖が。」
端で様子を伺っていた沖が、ささっと動いて、相手のマーカーを奪っていく。
「終了」の合図とともに、その場に残る5人は息をついた。三橋は壁をとく。
「三橋くん、次回からそのワザは無効。」
「は はいっ」
シガポの言葉に固くなる三橋の返答。無表情であわくった声はちょっと怖い。
沖と三橋は次の試合まで待機ということで、花井や水谷がいる所に移動してきた。今のところ一番マーカーをとっている沖が嬉しそうに花井たちに合流。三橋は恥ずかしそうに一歩おいた所で次の試合を見ようとしている。
水谷と沖は頷きあう。花井も苦笑しながら頷き、三人が三橋に話しかける。
次の試合は田島と阿部の戦いだ。不安そうな無表情に少し驚きながら話すと、三橋の顔は表情を露にした。
普通のゴーグルにはない機能を当たり前のように使う三橋を驚愕の顔でみやった三人は、三橋が教えるまで、次の試合の事をすっかり忘れてたのであった。
三橋たちがわいわいと盛り上がっている時、フィールド内は静かな闘志を燃やしている者たち二人がいた。7課の阿部と9課の田島である。仲が悪い訳ではない。ただ三橋を奪うか死守するかの選択で揉めているのだ。三橋は仕事ができればそれでいいと言っていたので、あとは7課課長と9課の口論のみである。これが延長に延長を重ね、現在に至る。どうしても7課に三橋をいれたい阿部と、三橋はオレたちの!と言い切っている田島。全員がどうでもいいやとか思っている事を彼らは真面目にやろうとする。それが阿部のクオリティであり、田島のクオリティである。
田島は9課ということもあるが、阿部に関しては初期からのメンバーということで、全員が残るに賭け、成立ならず。ならどちらが多くマーカーを奪うかという賭けに関しては、ほぼ半分にわかれた。
「ぜってー、勝つ!」
「言ってろ」
モモカンのカウントダウンが始まる。田島も阿部も臨戦態勢で臨む。
「…スタート!」
スピードは田島のほうが速い。阿部は的確に処理落ちしている者からマーカーを奪っている。
どっちだ?
ネットワーク上でも、現実でも、手に汗握る戦いであった。
「たじ まくん、すごい!」
阿部とは適切に距離をおきながらも、マーカーを奪っていく。相手が反撃に出ても歯牙にもかけない。9課の力を見せつけるかのようだった。
阿部も田島と距離をはかりながら次々とマーカーを奪っている。そこまでは同じだが、阿部には理論的というものが存在する。どのタイミングでどうすればというのを計算しながら奪っている。
30秒後、二人を除いて誰もマーカーを持っている者はいなかった。持ってるマーカーは同じ数であった。
「阿部、次で勝負。」
「泉にのされんなよ。」
「冗談!」
「なんかあそこだけ黒い。」
「…言わないでくれ。」
次の戦いに参加する花井はため息まじりに沖に言った。
あんなヤツと同類に見られたくなかったので。