自力金剛輪がとけた瞬間に、田島と阿部はその場にへたりこんだ。一部始終を見ていた者たちは合掌した。心の中で。安らかに眠れ。チーン。
「泉くん。」
「…はいっ!」
いきなり呼ばれたので一瞬反応が遅れたが、すぐに応える。
「三橋くんが作ったワクチンの骨組み、どう?」
ど真ん中の質問に泉は少し待って下さい。と言うと、三橋が送ったデータを検証し出す。泉の顔が難しい顔から感心のそれに変わる。
「三橋のワクチンは完璧です。」
「ならすぐに花井くんと阿部くんの課はそのデータを元に汎用性高いものを作って。田島くんと泉くんは三橋くんのサポート。」
『はいっ!』
握られたりそのイメージをトレスして震えている三橋とか三橋とかを除き、その場の全員が返事をする。
「三橋、田島、行くぞ。」
よれよれの三橋の車椅子を押しながら、田島の尻を蹴っ飛ばす。
「…ってぇ!何すんだよ!」
「その元気があるなら平気だな。三橋もいい加減落ち着け!」
「う ん。」
何とか頷いた感満載の三橋であったが、いつもの事と頭に処理させ、車椅子を動かす。
「田島!」
「へーい」と頭をおさえながら田島もついてくる。
「三橋、あれから進んでるか?」
賑やかなフロアを出ると、静かな廊下に出る。目の前のエレベーターではない、奥のエレベーターのボタンを押しながら泉がたずねる。
「す…少し!だ け!」
「…全然進んでねぇな。」
ぽーん、と電子音が響き、エレベーターのドアが開く。泉は慣れたもので、車椅子を反転させ、バックで車椅子をひく。その間に田島は開くボタンを押して、途中で閉まらないようにする。田島が車椅子をひいても泉が同じ事をする。その姿は慣れた者特有のそれである。
ドアが閉まると3人は同時に息をついた。
「モモカンは怖い。」
田島の珍しい弱音発言に誰も茶化さずに頷く。
無敵の9課の3人も、モモカンにはどう足掻いても勝てない。そんな意識が更に芽生えるのであった…。
研究室へと戻ると、三橋の車椅子で軽く動ける所のみがごちゃごちゃになっている場所に車椅子をとめた。本と資料と、パソコン。パソコンのディスプレイの端には付箋がこれでもか、とはっついている。
「うま、く、説明が できなく、て。」と三橋がうんうん唸っている。
「オレらには出来ない事か?」
泉の質問に三橋はぱちぱちとまばたきして、うーんと考えた後、恐る恐る口を開いた。
最初何を言っているかわからなかったが、田島の「あ、それ知ってる!ナントカってヤツの論文だろ?学生の時無理矢理読んだ。」という言葉により、泉は悩んでいるのはコンピューター関係かと推測する。
コンピューター関係…と頭を傾けると、三橋の説明がなんとなくわかる。
「三橋の言いたい事は大体わかった。」
三橋の話が終わると、二人はうんうん頷き、うーんと呻いた。確かに無理難題だ。
「あ、三橋、こういうのはどうだ?」
田島がかぱっと言うと、すらすらっと言葉を口にした。むぅ、とした三橋の顔が明るくなっていく。
「そ、れは、いいで す!」
「なら田島のに補足するとこうなるな。」
泉は近くにあったメモ帳を取ると、すらすらと書く。三橋の顔が更に明るくなる。
「田島、これ、どこの論文?」
「オレの昔出したレポート。」
「転用は?」
「そのレポートは荒唐無稽だって落とされた。」
「ならいいな。」
「おぅ。」
その間、三橋はぶつぶつ何か考えている。考えながらパソコンを車椅子の後ろから取り出している。
考えがまとまったようだ。ノートパソコンをケーブルで繋いで、カチャカチャ動かした後、デスクトップのパソコンのほうでものすごい勢いでキーを叩きだした。全部英語なので無理矢理読むと、田島と泉の意見を踏み台に、更なる意見を付け加えて書いているようだ。
「三橋!今日の昼飯奢りよろしく!」
田島の声に三橋は反応するのか?と泉は考えたが、ディスプレイ上にOKと表示され、少し止まった後、バックスペースで消された。
「…少し三橋の持っている本、読むかな…」
「偶然だな。オレもそれ思ってた。」
田島と泉は顔をあわすと、近くにあった本を手に取ったのであった。
辞書の取り合いになるまであと2分…