冬用の服や様々な備品を買い、フードコートでお昼ご飯を食べて、今度は晩ご飯の買い物。色々買い込んだので、三橋の車椅子の背中のバッグはぱんぱんに膨れあがっている。
そろそろ帰るのかな?と三橋が思っていると、浜田が押す車椅子はいつもの喫茶店に入った。
「おやつ、用意した。」と浜田が言い出した。さっき携帯が鳴っていたのはこれだったのかと納得する。
う、ん。と三橋は頷いた。
コーヒー二つ、と浜田が注文する。その間に三橋が座る場所の椅子を脇に避け、車椅子を定位置につける。奥まった場所の4人席。
ここの喫茶店に来る理由も分かっている。
浜田はテーブルの上に携帯を置き、三橋はそっと袋の中からノートパソコンを取り出す。画面を出し、少しいじる。すると、昨日あらかじめ違う方法で流しておいたものの結果が出ている…オールクリアー。
周囲を見回すと、一介のサラリーマンとかがコーヒーを飲みながら同じようにパソコンをいじっている。無線LANが備えられている上に美味しい珈琲を飲ませてくれる喫茶店としては、ここら辺では少し名の知れた店なのである。
三橋と浜田の前に、マスターが自ら持ってきたコーヒーが置かれる、ともう一つ。
それを見た三橋はいつもの様に呟く。
「こんな かわいく ない パン みたこと な い。」
それ…ジャムサンドを置いたマスターが微笑する。
「嗚呼、神様 なんてかわいくないんでしょう…ってか?」
浜田が遠慮も素っ気もなくそれを食べ出す。三橋もしぶしぶながら食べ出す。浜田とマスターは何やらぼそぼそと話している。三橋はもももと食べている。
マスターが三橋に微笑を浮かべて言う。
「期限は1週間以内。」
浜田が食べ終わる。コーヒーを飲む。キリマンジャロ。
ももも、と食べていた三橋が頷く。ミルクと砂糖を入れて飲む。マンデリン。
食べ終わると、三橋はそっと皿の上に置いてあるペーパーを取る。ひっくり返すと企業名やらが書いてある。
浜田がタバコに火を点ける。三橋は煙に注意しながらパソコンの中の予定表にそれを打ち入れる。10秒。
役目の済んだ紙はくしゃくしゃにして灰皿の上、浜田が火のついたタバコをぐいぐいと押しやると、明らかに普通の紙とは違う燃え方ですぐに燃える。燃え尽きるまで3秒。
「いつもの口座に。」
「…二倍、で。」
へぁ?と浜田が三橋を見る。三橋はパソコンに何やら打ち込んでいる。浜田の携帯がバイブ音を盛大にテーブルに打ち鳴らす。慌てて見ると、目の前の人物からのメール。差出人が全く違う者になっているが。
3日前、そこの同じシステムがDizzyによってハッキングされている。殆どデータはとられなかったがそれから常時2人で警戒をしている。その上、 Dizzyは行方不明。Dizzyの本名は○○ ○○○。東京都渋谷区〜にいたが、3日後に秩父の山の麓で発見される予定。理由はそこの会社のバックボーンに広域暴力団の上部組織とつながりのある政治家がいるから。その政治家の名前は──────
「…俺だってまだこんな情報手に入れてないぞ?」
浜田が頭を抱えながら三橋に言う。三橋はぴゃっと頭を引っ込める。
「俺もだ。…確かに2倍だな。情報料込みで。」
喫茶店のマスターも浜田と同じ格好をしている。
「なぁ、そこまで危ない橋だったら渡らなくても良いぞ?」
浜田が心配そうに言う。だが、オドオドしていた三橋はプルプルと首を横に振る。
「だい じょう ぶ。」
オレは 平気 だ よ。と三橋が言い切る。そうすると浜田も何も言えない。
「分かった。」
マスターがいつもの微笑に戻り、二人の元から去っていく。…ちゃんとコーヒー2杯ぶんの代金が書かれているそれをテーブルに置いて。
三橋がパタン、とパソコンを閉じた。パソコンをしまうと温くなったコーヒーを飲む。
「ごちそう さま でし た。」
「ごっそーさん。」
代金をその場に置いて、浜田は三橋の後ろに回る。
「ありがとうございました。」
マスターは深々とお辞儀をすると、去っていく車椅子と、普通の男の背中をちらりと見て、喫茶店の中へと入っていき、携帯のメールを送信した。
タイトルは無し。
『Start』
とだけ。