「本当にいいのか?」
浜田の声は本気の心配で溢れかえっている。
「へいき だ よ。」
三橋は手でもぞもぞと毛布をいじりながら答える。
「Dizzyに は、お世話 に なったこと ある か ら。」
「なぁ、そいつ、もう…」
浜田の言葉に、三橋は静かに、哀しそうに頷く。故人になってしまったと。
「オレ は、大丈夫。」
「まぁ、お前なら…なぁ。」
でも浜田には何かモヤモヤ感が残っていてしょうがない。そしてそれが外れたことが殆どない。
「三橋、出来る限りのことはオレがやっから、お前はそれだけに集中してくれ。」
しつになく慎重な浜田の言葉に、三橋はきょとんとなる。
「いつも と 同じ 方法 だ よ?」
「それでも!」
うん わかっ た。と三橋は答えた。駅のコンコースに入り、改札を通る。もう少しで帰りのラッシュの時間だった。少し人が多い。列車の止まる所の近くで一度ブレーキをして、電車を待つ。浜田も気にしているが、車椅子に乗っている人間の頭は、丁度歩いている人の腰あたりにある。今も大きなリュックに横面はたかれた。浜田がそれを注意すると「なんだよこの………」と嘲る言葉が返ってきた。周囲の反応は著しく、無視を決め込むかじろじろと見てくるか、バックを持ち直すか。
「オレ、三橋を見ていると、普通のマナーというのに真剣になっちまうよ。」
その言葉に、三橋はちょっと困ったような顔をして、笑った。
結局、夕食も浜田が作る事になった。三橋が遠出をして、しかも様々なことがこの数時間で起きたのだ。精神的に疲れてもしょうがない。ベッドの住人になった三橋はぐっすりと眠っている。顔色が少し悪い。
起きて、晩ご飯を食べたら、彼は始めるのだろう。孤独な作業を。
三橋とは、三橋がまだ会社勤めをしていた時からの仲である。自分もあの時はまだ仕事人だったんだよなーとか思いつつ、挽肉に他の材料を入れて捏ねる。
まぁ、ちょっとの間に、本当に色々なことがあった。オレはオレで満足しているし。三橋もきっと満足しているのだろう。
あの騒がしい二人組をここに引っ越させた時は少し賭けだったが、それは良い方向に転がった。三橋も新たな楽しみを得たようだし、何より彼らと話している時の顔は、会社を辞めた時の顔とは全く違う。明るい顔をするようになった。
その時、三橋の携帯が鳴った。起こさないように、さっと見ると、相手は泉。会社が早く終わったのか?と電話に出る。
「もしもーし。三橋、今寝てる。」
『ああ?浜田か?』
泉とは同じ高校に通っていた。…まぁ、色々あってダブッたところでこいつがいたんで、同じ町にいたのでたまに会って…情報収集をしていた。あいつもかなりの腕前のハッカーだったから。しかも自分で情報網も持っていた。田島と一緒にあの会社に入れて良かったと思う。
「晩飯はちゃんとハンバーグ作ってっからなー。田島にもそう言っておけ。」
『わーったよ。サラダでも何か買っていくから30分くらいで。』
「了解。火ィ扱うから切るな。」
『あいよ。』
だから、ハッカーから(半ば問答無用だったけど)足を洗い、仕事につくと分かった途端、ちょうど引っ越しが済んで空き部屋になったこのアパートを紹介したのだ。泉の人となりは知っている。三橋ともきっとうまくやっていけるだろう…と。さっきも言ったが少し賭けだったけど、それは大正解だった。
熱したフライパンに小判型のハンバーグを乗せる。肉の焼ける音。いい匂い。
「さて、と。三橋を起こすか。」
多分、この匂いで起きていると思うが…食い意地は張っているから。
浜田は、奥にある三橋の部屋のドアを開いた。
「三橋ー。晩飯だぞ。」