さぁて、どうしよっかなぁ。と田島は思っていた。
 相手は未知数の投手。もしかしたら、野球部のエースになりうる力を持った人間だからだ。
 ウヒヒ、と思う。どんな球を投げてくるだろう。今日は捕手になって、そいつの力量を見てやるんだ♪
 授業なんてそっちのけ。投げたヤツの名前は忘れたけど、顔は覚えている。自分の席の前のヤツだ。
 ふわふわ茶色のくせっ毛がたまに風に揺れる。今日は野球日和だ。朝練も気持ちよかったから、次の授業も楽しいだろう。
 野球にどっぷり浸かっているヤツ相手にやる野球は楽しいが、観戦しかしたことがないようなヤツとする野球も楽しい。結局自分は野球が大好きなんだろう。

あー、どんな球投げてくるのかなー
  あー、オレ打てるかなー
  あー、楽しみだなー

 うん。すっげー楽しみ!

 本当にスゲェ投手だったらどうしよう。うわー、今から楽しみ。
 もう既に、田島の頭は次の授業へと移っていた。





 どうしよう。と三橋は思っていた。
 次の授業は体育。事もあろうに、まだ野球だ。
 前回はほんの少しだけだったので何も考えずに投げたが、今回は…
「三橋、投手は打たれたら交替だから、次の授業はお前からだからな。」
 体育の教師の言葉がよみがえってくる。風邪でもひきたくなってきた。怪我でもしたくなってきた。
 古典の教科書を見ながら三橋は考える。どうすれば次の時投手をやめることができるか。

 簡単だ。打たれればいい。

 でも…打たれたく、ない。

 なら投げなくてはならない。

 でも、投げたく、ない。

 二律背反が三橋を襲う。涙が出そうになって、授業中だということで何とかこらえる。
 そうだ。そういえば誰かがこのクラスには野球部が二人いる、と言っていた。その人が打てば終わりだろう。ダメピーでヘロ球なんか、場外までふっとばしてくれるに違いない。
 そうだ。そうだ。と思い、三橋はまた授業に没頭した。