花井が部室へと来た時、珍しく9組の片割れがぶすくれていた。それをもう片割れが指さしてゲラゲラ笑っている。
何だ?と尋ねようとした時、沖が口を開く。
「クラスのヤツに三振とられたんだって。」
そらショックだろうなー。と花井も思った。
「ま、犬にかまれたと思って…」
何だ?訳分からない宥めかただなぁと思いつつ「まぁ、そんなこともあるだろ?」と泉に言おうとしたら
「いきなりやや高めのカーブ!低めのシュート!ボールぎりぎりの左のストレート!」
がうっ!と泉が吼えた。これには花井もヒいた。
ヒいた後に、ふと気づく。
「…なんか、すごいヤツじゃねーか?そいつ。」
「…まぁね。」
ぶーたれながらも泉は認めた。まさかクラスの連中に三振をとられるとは思わなかったからだ。対する田島はカンカンコンコン打って「オレの勝ちぃ♪」と喜んでいたからますます機嫌が悪くなる。もしかしたら…いや、もしかしなくても野球経験者なのだろう。しかも変化球…へんかきゅう?
「もしかして、そいつ、投手だったのか?」
その言葉に田島と泉がギョッとする。声の大きさからかもしれない。
「…そーいわれてみれば…」
田島が小首を傾げつつ言う。
「…あいつのキャッチャーやってたヤツ、全然ミットが動いていなかったな…って、もしかして、スゲーヤツ?」
「変化球使えるのなら、間違いなくピッチやってたヤツだろ。」
沖はストレートがようやく投げられる程度。花井はカーブがやっとの有様。それなのに…。
「最低でも2種類の変化球か…。」
「でも球速自体はめっさ遅いんだよ。」
遅いのに、何故か打てなかったんだよなー。と泉は歯をぎりぎりしだす。
「なぁ、田島。」
「わーってるって。投手は次回持ち越しだから、次回のピッチはそいつから。んでもって、オレがキャッチャーやってみりゃいいんだろ?」
「良く分かったな。」
「話からいでか。」
その時、ドアが開いて、ゴミ当番だった阿部と水谷が入ってくる。
(とりあえず、その話はまだ阿部にするな)
天然爆弾の田島も、その時は真剣に頷いた。