月曜日。一番早い中に入る花井が着た時には、既に田島と泉はグラウンドに出ていた。
「っス!」「うす」と言いながら、すごく何やら楽しげである。よく見ると、二人とも練習着が真っ白なところは真っ白、真っ黒なところは真っ黒。すなわち新品である。しかも…
「おそろなんだよなー。」
「なー。」
 いつも上機嫌の田島は珍しくないが、上機嫌な泉は珍しい。何が起きたのか、何が起きるのか?と集まりだしたその場にいた全員の心をゲットした。
「はい、みんな、おはよう!集まって〜!」
 ストレッチを始める前に、突然モモカンが集合をかける。全員走って集合する。
 モモカンは全員の顔を見回し。ニカッと笑った。
「新入部員を紹介します。…入って来て。」
 右手と右足を同時に出しながら入ってくる姿…新品の練習着に新品の靴。でもグローブだけは使い込んである、その姿。
 田島と泉は手を叩き合う。それ以外は全員、呆然。
「入部届けは、今朝、志賀先生のもとに届けられ、受理されました。よって、彼はうちの部員です。」
 それでも呆然としている彼らにモモカンはうふふ、と笑いながら。「自己紹介をしてもらわないとね。」と言い、「名前は?」と聞いた。
「み、三橋 廉 で す。1ね 年 で す。」
「ポジションは?」
 わざとらしく訊ねるモモカン。珍しくイジワルモードに入っているのか?でも、その口から聞きたかった。そのポジションの名前を。
「ポジションは…と…と と…」
 ごくり、と誰かがのどを鳴らす。
「…投手、で す。」
「あらぁ。この野球部には完全な『投手』はいなかったのよ。」
 あからさまにわざとらしいモモカン。
「だから、そのまま投手として入ってもらいます。」
「へっ」
 さすがに三橋も驚いたようだ。だが、目の前に立った彼の前でさらに立ちすくむ。
「正捕手 阿部 隆也だ。これから、お前の球を受けるからな。」
「…は は はい。」
 握手するのか?何するのか?と全員が注目する中、阿部はふらりと歩むと…

 ぎゅっ

 握手ではない。これは握手ではない。

「ハグぅ!」

 素っ頓狂な声で水谷が叫ぶ。花井はやれやれ、といった顔でその二人を見る。
 ようやく阿部は手に入れたのだ。投手を。その喜びは握手でも、言葉でも言い表せなかったのだろう。
「ずりぇー、阿部、オレも混ぜろ!」
 ぴゃっと走って三橋の後ろに抱きつく。
「何だよ田島!オレも!」
 泉が三橋の右をキープ。
「オレもー。」と栄口、左をキープ。花井たちもそれを囲み、三橋や阿部の頭や背中をぽんぽんと叩いている。
「あらぁ、おしくら饅頭をやるにはまだ早い時期だわね。」
 にっこりとモモカンは笑った。