野球部員にとっても、そしてどの体育会系部員にも、一番嬉しい科目がある。
─────体育だ。
「おい、今日男子、野球だって!」
廊下から駆け込んできたクラスの者に、田島と泉は手を叩き合って喜んだ。練習以外にも野球が出来る!これが嬉しいと言ってなんて言うんだろう!
「田島、どーせオレら離されるんだから、点取り合戦しようぜ。」
珍しく泉が好戦的に言う。
「ははーん。みんなヘロ球だからかー。悪いけど、オレはどんな球でもうーつよー♪」
「デッドボールには注意しろよ、ただでさえ悪い頭がさらに悪くなる!」
「ひっでぇなぁ!」
ぎゃいぎゃい言いながら二人はジャージにぴゃーっと着替え、外へと出る。今日はいつも使っている野球部が使っているほうのグラウンドだ。急がないと間に合わない。チャリでかっとばさないといけないのだ。チャリで登校していないヤツは2ケツをお願いする為に教室は騒々しい。
田島が最初に出て行き、泉が次に出る。で、クラスメイトがぞろぞろと出て、最後あたりに一人、嫌そうな顔をして影の薄い者が出て、日直は鍵をかけた。
で、走る。
名前すらも覚えていない彼を追い抜いて、とりあえず「まにあわねーぞー」と一声かけて、階段を駆け下りる。
彼は、その時、一言言った。誰も聞いていなかったから言ったのだが。
「間に合わなくても、いいんだ。」
オレなんかが、野球なんて、やってはいけない。
グラウンドに最後に着いたのは、クラスメイトが殆ど名前の覚えていない男子だった。とりあえず教師に叱られ、オドオドとしていた。
そう、1学期の最初は誰でも彼でも友達を作ろうと努力するのだ。そして話の合う者をだんだんと増やして、友達「たち」を形成する。無論、彼にも何人か話しかけたのだ。だが、彼の異常性に誰もついていけなかった。
話しかけると、視線は全く合わない。
話しても、小声でどもる。
そして何故か分からないがすぐに泣く。
「コイツはやめよう」とクラスメイトは思った。彼のもとにいた人たちは去り、彼一人が残った。今日もグラウンドでキョドキョドと周囲を見ている。
「よーし!打たれたら交替!」
教師の声になんだよーそれー、ギャハハハハハ!という声があがる。うまく最後のポジションに入った。これなら…球を投げられずにすむかもしれない。
「んっじゃあ、いっきまーす☆」
クラスメイトの一人が、ぎこちなく振りかぶった。