今日の体育は1500メートル走だった。田島は「ちくしょー」といいながらも見学。泉と三橋は宥めながらも「競争して、負けたらジュースおごる。」で盛り上がっていた。
「位置について、よーい…」
パン
9組の面々が次々と走り出す。田島はぶーたれながらそれを見ている。トップは泉かなー。とか思いつつ。
ところが。
「あれ?」
泉ははるかかなたの2位。トップを独走しているのは…三橋だ。ペースも速いが、全くそのスピードも落ちない。
結果、2位の泉を半周ほど離して三橋は一位で入った。これには体育教師も驚いていた。
「三橋は…陸上部でも入ってるのか?」
「は、へ…?」
急いでぶんぶんと首を横に振る。なお、体育教師は柔道部の顧問だ。
「そうかー。お前のフォーム直したらインハイにも行けそうだな。」
ははは。と笑いながら三橋の背中をバシバシと叩いた。
「う、うひぃ…」
三橋は荒い息をつきながらも最後まで走っている者たちを待っていた。
田島と泉が慌てた調子で7組に入ってきたのは昼休みのことであった。
「どうした?珍しい慌て…」
「…三橋が陸上部に連れて行かれた!」
なにぃっ!
泉の言葉に7組の全員が声を揃えた。
「忘れてた。三橋、短距離と中距離、オレの次に速かったんだ。」
すっかり忘れてたと田島が言う。田島の次ってすごいんじゃ…と7組連中は顔を見合わせる。
「とりあえず、それだけ言いに来たから。オレらも昼飯終わってねーんだよ。」
三橋はもう食べ終わってたから連れて行かれたんだけど。といってタターっと走って去っていった。
完全に見事なまでの風台風である。
「…陸上部か…。」
花井が苦虫を噛み潰したような口調で言う。
「『あの』陸上部か…。」
陸上部には何度煮え湯を飲まされてきたか分からない。
体力測定学年一の田島を問答無用で陸上部へと入部させようとしたことから端を発し(本人も嫌がり、もめごととなり、最終的にはシガポと陸上部顧問の話し合いまで至った)、グラウンドの使用、部室の移動、エトセトラ、エトセトラ…。こっちは一年生しかいないものだから、3年が生徒会に言ってほいほいと変えさせてしまうのだ。志賀がいなかったらさらにひどいことになっていただろう。
その陸上部が、だ。今まで三橋に目をつけていなかったことが不思議なくらいだ。まぁ、「あの」性格が功を奏したのかどうかは微妙だが。
「陸上部かぁ…」
水谷が天井を仰ぎながら言う。キャプテン・副キャプテンがいるクラスだ。ある程度の情報と状態は知っている。そして…
「手が出せないのが悔しいことが、これほど悔しいこと、ないなぁ。」
三橋は三橋自身で道を選択しなければならない。誰の手も借りずに。それが陸上部であろうとも。
「どーなるんだろうな。」
水谷のつぶやきに、花井も阿部も、何も返さなかった。