帰りは誰もが無言だった。
 こんなことは初めてだったから。
 こんな気持ちの良い勝利は初めてだったから。
 でも…。

 ちらり、ちらり、と西浦ナインは見る。
 田島と泉と会話を成立させている三橋を。
 駅へついたら、三橋はそのまま家へと帰る。
 駅へついたら、野球部員は全員、今日の反省会を行う。

 実は、三橋がネクストに入っている時から、モモカンから野球部員へとある伝言がなされていった。田島には、三橋が打席についたとき、花井が一言、無理やりの無表情で告げた。

『試合が終わって、駅について三橋と別れたら、一切、三橋への勧誘などは行わないこと。三橋自身の意思にまかせろとの伝言だ。』

 ガーッと電車のドアが開く。降りなければならない。荷物をチャリに乗っけられるという開放感を味わう前に、なんか、この足を止めたい気分になっていた。
 三橋と田島は話しながら降りていった。泉もそれに続く。ぞろぞろとそれに続いて…
「阿部。」
 花井が声をかける。ベルが鳴っている。半分呆けているような姿に、無理やり右手を取ると、だーっと駆け降りた。

「そ、それじゃあ、き、今日は、あ、ありがとうごございまし た。」
 ぺこっとお辞儀をして、三橋は見回した。
 三橋の頭の中は今は凪いでいた。よくわからないけど、こんな落ち着いた気分になっているのは久しぶりだと思っていた。理由はわからない。
「三橋。」
 その時、今日一日だけのキャッチャーだった阿部がやってきた。そして左手を差し出してくる。
「バッテリー、サンキュ。」
 三橋は、その手を握った。自分はほかほかっと温かいのに、阿部のそれは氷のように冷たかった。
「こ、こちらこそ。」
 ちょっとして、離した。そして、自転車に荷物を載せ、「お疲れ様でし た。」との言葉と共に去っていった。

 本当に、去っていった。