練習試合は9時から、相手側の学校のグラウンドを借りて行うことになっていた。
 電車+バス移動ということで、全員が駅へと集合していた…はずがいない。
「…なぁ、栄口。」
「訊かないで、言わないで。」
 ノートを破って、時間と集合場所まで書いて手渡した。と栄口は言った。それなのに…集合時間はとっくに過ぎている。
「…おい、栄口…。」
 かなりの怒気と僅かな焦りを滲ませながら阿部が口を開いたその時。

「うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 家とは全然違う方向から、三橋が出てきた。しかも叫びながら。

『は?』

 全員の動きが止まる。何だ?コイツは?

「わう♪」

 泣きながら、叫びながら逃げる三橋を追いかけているのは…犬。しかもかなりでかい。もはや野球部員の顔など分からないで、半ベソかきながら全力疾走でチャリをとばしている。それを喜んで追いかける、でかい、犬。三橋は駅前を通り過ぎ、違う所へ行ってしまう寸前だ。泉が慌てて路駐しておいたチャリに跨り後を追う。

「もしかして…犬嫌い…か?」
「…そう…みたい…だな。」
 頭を抱えながら呟く花井にこめかみ押さえながら呟く阿部。
「あれ?あれ、うちの近所の犬だ。」
 水谷がほへっとした顔で言う。はぁ?と水谷を見る全員。
「ジョーン!ジョン・トラボルタ!」
 水谷がその犬の名前?を呼ぶ。呼ばれた犬は…止まった。止まって、水谷のほうへとへっへっへっと走り寄ってくる。その毛をなでながら水谷はちょっと叱るように言う。
「ダメだろ〜、今日はサンデーなんだからナイト・フィーバーしていいのはサタデーのみ、な。」
「わふ。」
 意味不明の会話をする犬と水谷に焦点をあわせながら…泉が追いかけていったほうをも見る。なかなか難しい作業だ。
 三橋と泉が戻ってきたのは5分後だった。
「三橋、ここ路上駐車しても盗られないから。」とアドバイスしながら泉がまだ半ベソかいてる三橋の自転車をひいていく。その姿はおかあさんに曳かれて歩く子供…。
「おまたせー。」
「おまた………………ひゃぁうっ」
 泉と三橋が集団に寄った時、またもや三橋は奇声をあげる。「あ。」と全員が水谷、とその犬を見る。
「あ、そか。ちょっと近くの知り合いに預けてくるよ。」
 ジョン・トラボルタはすぐに脱走するんだよ〜。と言いながら犬と一緒に走っていく姿を三橋を除く全員が温い視線で追いかける。
「三橋、犬、全然ダメなんだって。」
 早いうちに家を出たら、彷徨っていたジョン・トなんとかに追いかけられ、猛ダッシュで「いつの間にか」ここにたどり着いたらしい。と泉が説明した。
 その説明にモモカン含めて全員がはぁぁぁぁぁと安堵のため息をつく。とりあえず、全員揃ったのだ。
「おい、三橋。」
 阿部はつかつかと歩いていき、まだ荒い呼吸の三橋の前に立つ。堂々、というかなんというか…。
「な……な、なに?」
 いきなり阿部は三橋の右手をとると、がしっと握手した。阿部の手に全力疾走したための汗と、それ以外の理由でか、ひんやりした温度を伝えてくる。数秒だけ。数秒だけでも…

 落ち着いて、落ち着きを取り戻してくれ。

「…頑張ろうな。」
 フッと手を離す。手はひんやりとしたままだったが、ぽかーん、と三橋は突っ立っていた。
「行くよ!」
 モモカンのかけ声で全員が荷物を持つまで。