木曜日・金曜日、と怒濤の二日間が過ぎた。にわかバッテリーも(片方が)困憊していたが、泉と栄口も困憊というか…やさぐれていた。花井に至っては胃袋を時々押さえている。
「このくらいのサインも覚えられねぇのか!この馬鹿!」から始まり「いい加減にしろ!」「馬鹿たれ!」など阿部は見事にブチブチとキれた。キレまくった。それに対して三橋は泣いた。栄口と泉のとりなしがなかったら、練習にならなかっただろう。
「阿部くん、ちょっと。」
 阿部がモモカンに呼ばれたのは、土曜日の午後のことだった。阿部のスパルタ(?)教育の賜物か、三橋は大体のサインを覚えた。コントロールはそれに合わせてさらに磨きがかかってきた。そんな中の監督の声。
「うっす。」
 三橋に誰かと…と思って、見たら、近くに泉と栄口がいたので「パスまわしの練習頼む。」と言って、プロテクター装着のままグラウンドの外へと出て…部室へと入った。部室には幾つかパイプ椅子が置いてあり、百枝はその一つを取って、窓側へと置いて座る。阿部はその反対側、入り口側へと椅子を置いて、座る。
「さて、阿部くん。」
 にこり、と笑った後、百枝は一言言った。

「自分専用のロボットを作った感想はいかが?」




 「じゃあ、そこからは自分で考えてね。」と、百枝が出て何分経っただろうか 。

 阿部は全身が竦む思いで考えていた。

『三橋くんの仮入部は明日までなのよ』

 そうだった。
 あのウザくて卑屈で、コントロールの良さと変化球の多さと「まっすぐ」以外は何も取り柄もないヤツは、明日で「野球部員」ではなくなるのだ。「見学者」に戻るか…もしくは………………

 田島が盲腸で入院して、三橋が仮でも入部する、と分かった瞬間、有頂天になっていた自分に今更ながらに気づく。あの球を受け、これからのことを考えてかんがえてノートに色々と書き殴って、自分の考えがまとまった時、三橋のもとへと「押しつけ」に行ったのだ。三橋の了承も何もなしに。ここ4日間を振り向くと、ワケワカラナイ顔か、泣いている顔しか見たことがなかった。それでもいい。と思っていた。だが、百枝の言葉によって、それは間違いだったと気づく。いや、気づかされてしまった。

 自分は野球部に残る。だが、三橋は?あれだけ野球部に入るのを拒んでいた三橋は?

 これきりだったら……?

『「残れ」とか阿部くん…ううん、みんな言ってはダメ。入部するかしないかは三橋くんが考えること。催促もしちゃダメ。確かに三橋くんは野球部に必要な人材。…でも、無理矢理入部は彼を駄目にする。』

 罵詈雑言しかあびせていなかった。肯定も否定もしなかったから。性格も理解しようとしなかったから。

 ただただ、「自分に従う愚かなピッチャーにする。」という考えだったら…?

 阿部は立ち上がった。ふらふらと部室を出て、カギをかけ、ふらふらとグラウンドへと戻る。
 頭の中は様々なことでいっぱいだった。でも、これだけは分かっていた。

 自分が起こしたことは、自分で終結させる。

 それにはどうすればいいか。

 答えは目の前にあるはず。それが自分には見えていないだけ。

 それを見る為に、阿部はグラウンドへと戻っていった。