ク○ープの無いコーヒーなんて、波のない海のようだ。とは昔のCMの言葉。

 そして…エース投手のいない野球部なんて……。

 4月に集った者の中で、完全に「投手」と言った者はいなかった。急遽花井と沖が投手をやり、その途中で田島が捕手へと入った。野球初心者の西広も容赦がなかった。9人。そう、ギリギリしかいないのだ。
 夏は…もう思い出したくもなかった。

 あっけなく、負けた。

 仕方がないだろう。変化球が一つしかできない花井に、あまり投手経験がない沖が投げる球は、いっそ小気味良いくらいの音をたてて様々な方向へと飛んでいった。レフトが凡ミスしたり(それ以来彼をクソレフトと呼んでいる)、様々な理由があったものの、負けた。

 春休みからグラウンド整備して、自分が作った、ピッチャーマウンド。

 あそこに、エースが立ち、自分のコントロール通りに投げる。少しくらいの暴投は許そう。だから、だから…
「一人…ひとりでいいんだよ…な。」
 性格も許す。アレよかオレサマな性格は流石に困るが…。
「あ、またエースが欲しいよ、って顔してるね。」
 練習後のトンボかけをのろのろとしながら考えていたのが顔に出たのか、栄口が隣に寄ってきた。
「っせーな。」
 スパイクで軽く蹴ると「あはははは」と笑いながら中指をたてた状態での拳骨が降ってきた。ピンポイントなのでなかなか痛い。
「確かに、欲しいよねぇ…。」
「………ああ。」

 (首を振らない)エース。

 栄口はモモカンが「あら、投手がいなのね。」という言葉を言った時の阿部の表情を覚えている。絶望のような、深い闇の底を見たような、暗い、顔。
「意外と、石でも投げたら、エースに当たるかもよ。」
 はは、と笑いながら、栄口はグラウンドに落ちてたちょっと大きめの石を拾って、投げた。
 方向性は良かったが、意外と距離が伸びた。
「痛っ!」
 こちんっ、と頭に当たったのは…泉だった。
「ごめんー!」
 胸元にトンボの枝を置いて手を合わせて泉に謝る。
「オレはグローブじゃねーぞ!」
「悪いわるい〜」
 その一言でおしまい。野球部員は全員仲がよい。で、阿部と栄口は石が当たった当人を見て、同時に顔を合わす。
「…泉が、エース?」
「…ありえんだろ。」

 野球部副キャプ同士の会話はこうして終了した。

 だが、石でも投げたら、本当に「それ」に当たるかもしれないことが分かるのは、もう少し先の事である。