ストレッチャーに乗せられて、運ばれていく田島の姿を見て、三橋はずっと泣き通しだった。泉と栄口がついて「大丈夫。あいつ死なないから。」「死にそうにないだろ?」と言っているが、効果は薄い。
とりあえず、シガポとモモカンが田島についていってしまった為、そのまま野球部は練習を終了することになった。三橋は私服を持ってきたが野球部の部室には入らず、近くのトイレで着替えた。個室だったので、ついでとばかりにトイレットペーパーで鼻をかむ。それでも後からあとから涙が出てきてとまらない。不安で、ふあんで、どうしようもなかった。
個室を出ると、近くに泉と栄口がいた。既に二人とも着替え終わり、三橋を待っていた。反射的に動けなくなる三橋だが、ぽろりとまた涙がこぼれた。涙腺が決壊したようだ。後から後から涙が出てくる。
「三橋…」
病院に搬送された田島よりも三橋のほうが重病人のような気がして、泉はどうしようか、と悩んだ。多分三橋はあの「取り返し…」の内容がリフレインで回っているのだろう。なら、それを断ち切って、とりあえず三橋を「いつもの」三橋に戻さないことには両目お岩さんになってしまう。
泉はふぅーっと息を吸って、吐いて、そして、また吸って…
「三橋!」
本当はピッチャーにはやってはいけないんだろうけど…両肩をばん、と上から叩いた。
「う、え?」
一瞬、訳分からなくなって、三橋は泉を見る。
「いいか?三橋。」
泉から発する気に押されたか、三橋の目から涙が止まる。ただ叩かれたことに驚いたからかもしれないけど。
「三橋。」
正面を見ると、今まで見たことがなかった泉の真剣な顔。怖いくらいの。
泉はそこでまた息を吸うと、三橋に呪文をかけるように大きな声で言った。
「 た じ ま は だ い じ ょ う ぶ ! 」
「 た じ ま を し ん じ ろ ! 」
「 た じ ま は だ い じ ょ う ぶ ! 」
グッと肩を掴まれたまま言われた言葉は、今度は素直に三橋の心に入っていく。
「田島は大丈夫。」
「…う ん。」
「田島は大丈夫。」
「…うん。」
「田島を信じろ。」
「……うん。」
肩から手を離した時、目は腫れぼったくなっていたが、いつもの三橋に戻っていた。