委員会で呼び出されていた花井が、その姿を見かけたのは、野球部の面々がそれぞれストレッチを終了させ、キャッチボールを始めているところだった。
 自転車を止め、グラウンドの中をじっと見ている姿は、見覚えがあった。
(えーっと名前なまえ…えっと…カール…おじさんの歌…そうだ!)
「三智也…じゃなくて三橋…くん。」
 思わず違う三橋がでてきてしまった。こっちの三橋は父親のカラオケの十八番だ。「別れの一本杉」は秀作だと思う。

 涙〜ぁ 捨てたんだとさ 待つ気になったんだとさ〜♪

 頭の中で3番が勝手に流れる。と、三橋を見ると、脅えた顔をして既に逃げの体勢に入っている。
「ま、待ったー!」
 はっし、と両手で後部の荷物置きを掴む。ややバランスを崩したが、転ぶことはなかった。良かった。
「ひ……」
 捕まえた小動物の目、と花井は思った。田島や泉は本当に手なずけたんだなぁ。とちょっと思う。
「オレ、花井っつーんだけど。この間見学してくれたヤツだよな。」
 逃げたいよぉ、逃げたいよぉ、という表情はあえて無視して話を続ける。
「フェンス越しじゃなくて、中で見たら?田島や泉もいるし。」

 ぴく。

 お。

 どの言葉に反応したのか抵抗の止まった三橋に少し近づいたとよく分からないが喜びが溢れる。
「お…オレ…………中………に…………?」
 たどたどしい口調で問いかけてくる。自分の妹たちよりも優しく…というか、いつか田島の家に行った時に無理矢理手に乗せられたハムスターに触れるように話す。
「そう。阿部…」

 びくっ。

「…大丈夫。近寄らせないから。」

 あの激短気。あいつがこの間怒鳴り込まなかったらもう少しなじんでいたかもしれないに…。

「う…………」

 さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 三橋の顔色が見る間に青くなっていく。すわ、貧血かと思いきや、自分の後ろから声。
「おい、花井。いい加減練習入れ。」

 あーべぇぇぇぇぇぇぇ

 花井はちょっと泣きたくなった。よりによって、よりによって………。
「それでお前。」
 既に完全にキョドっている三橋に話しかける。が、視線を合わせようともしない。
「お前だよ、お・ま・え!」
 前のことを忘れているのか、頭に血が昇っている阿部。昇るのも速いがキレるのも速い。
「てめぇっ!人のはな…モガ…」
「はーい、そこまで。」
 花井は栄口という天使を見た。
「…三橋君…だったよね。さっきからネット越しに見てたから気になってたんだ。入って見ていかないかい?」
「………う…………ぁ……………」
「大丈夫。阿部は一番離れた所で練習させるから。」

 栄口…副キャプに指名してよかったと思ったことはこれ以上になかったよ……。

「花井もさ、三橋の投げ方に興味持って、ちょっと見たいって思ってんだって。」

 はい?

 栄口と三橋の視線が花井に向かう。

 ミ・タ・イ・ト・イ・エ

 栄口…これほどお前が悪魔に見えたこともなかったよ……。

「あ、ああ、ああ。そ、そう。見たい。見たいんだ。」
 だから来てくれないか?と栄口と花井は揃って頼んだ。
 結果は…小さいながらの肯定の頷きだった。

 ちなみに、この間は、完全に阿部は無視されていた…………。