高校生活が始まった。
 三橋は結局どこの部活にも入らなかった。祖父の「帝王学」と称して中学で野球を引退した後に少しだけやったゴルフ部にでも入ろうかとも考えたが、好きでもない部に入ってもつまらないだけなので、やめた。
 結局、起きて、朝食をとり、学校へと行き、授業を受け、昼食をとり、授業を受け、帰る。

 その繰り返しになった。

 当然、家に帰るのは早い。三橋自身、あまり寄り道をすることがないので、帰ることしかないのだ。そして、帰って、一息つくと、自然と足はそこへと行ってしまうのだ。庭の片隅へと。


 中学の時のものは、全て処分した。


 スパイク履いて行うそれは、スニーカー。
 グローブは、まだぴかぴかの新品で、使いづらい。
 お年玉の残りで買った硬球は、20個。

 自分が持っているものは、それだけだった。
 振りかぶって、投げる。頭の中で思いついた場所に、すぽりと収まって、落ちる。

 20球、投げて、拾って、また投げる。無言のまま。

 野球部には入らなくても、投げること「だけ」は好きだった。三橋唯一の「楽しみ」である。すでにクラスでも孤立しだしている三橋の、誰も知らない一面であることは確かである。

 20球、投げて、拾って、また投げる。

 母から夕食の声がかかるまで、それは続けられる。
 食べた後、今日の復習と宿題をやり、寝る。

 変わらない、全く変わらない日常。

 たまに、帰り際に自転車に乗りながら、野球部の練習を見る、それぐらい。
 そう、それくらい。それくらいのこと。

 その時の三橋の表情は、様々な感情が混ざった複雑な表情であることは誰も知らない。


 今日も、学校から帰り、いつものことをする。
 三橋は、そのために自転車のペダルに右足の力を込めた。