学校へと行く支度をして、キッチンに降り、両親に「おはよう」の挨拶をした。
お母さんは何も言わないで「はい、おべんとう。好物が入っているわよ。」と言ってくれた。
お父さんはぎゅっと抱きしめて「嫌だったら高校なんて辞めてもいいんだからな!」と言ってくれた。
「う ん。 大丈夫だ よ。」
お弁当をリュックに入れ、三橋は朝食を食べ出した。ここ一週間、殆ど食欲がなかったのがウソのようだ。
ずっと重くて…胃も、体も…心も。
でも、昨日、みんな来てくれた。みんな、励ましてくれた。こんなダメなヤツに…。
ぽた。
「あ れ?」
ぽた。 ぽた。
自分が泣いている、と気づいた。悲しくないのに。むしろ…花がほわっと咲いたようなあったかい気分なのに…。
「な んでだ ろ?」
泣きながら、三橋は気づかず?笑んでいた。田島や泉や浜田の言葉が頭の中をくるくるとエンドレスで回る。回るのもゆっくり上向きに、涙で沈んでいた心が彼らの言葉によって浮き上がって、悲しみの涙が押し上げられ、流れ出る…。
「トモ…ダチ…………」
やり直せるのか?
ふと、三橋の頭の中にその言葉が浮かんだ。
中学生の時は友と言っていた者とも半ば決別するように自分から離れた。全てのモノが、自分から離れた。
「トモダチ……」
トモダチハイイナ トモダチトイルト ココロガオチツクノ
ギシギシ荘の時を思い出す。心が落ち着く…いや、はずんだ。毎日、まいにち、野球ばっかりやって、泣いたけど、笑った。ハマちゃんと、投げたり取ったりした。
ギシギシ荘は無い。
でも…「自由」な高校は、ある。
「行こう。」
三橋は決心した。ハマちゃんも、田島くんも、泉くんも、いる。
ぽろっ、と涙が出た。
その日に出た、最後の涙だった。
スニーカーを履き「行ってきま す!」と声を出した。がちゃがちゃと自転車に乗る。
ペダルをこぐ。足が、軽い。
「ムフフ〜ン」
久しぶりに、鼻歌が出た。少しずつ寒くなっていくけど、今の三橋の心は、ぽっかぽかと暖かかった。