「小2の頃だっけ?転校したの。」
めいめい持ってきたペットボトルを開けながら、浜田が三橋に話しかける。
「う……う ん。」
「え?じゃあ、三橋って、オレと同じ学校だったの?」
浜田と同小・同中だった泉がすっとんきょうな声を出す。
「そ そうみた い…。」
三橋も買い置きしてあったペットボトルに口をつけ、答える。
「は…ハマちゃん が、野球、教えてくれた から 野球、覚えた。」
とつとつと話す三橋。感情がほとんどこもっていない。
「新しい小学校 ともだち だれも いなく て…。」
ギシギシ…もとい山岸荘の近くまで行った、と三橋は言った。
「なくなってたろ?ギシギシ荘。」
「う…うん。」
それから父に頼んで木製の「マト」を作ってもらったこと。硬球にしたので自作の「マト」を使っていたということを話した。
「ちゅ、中学は、おじいちゃんの学校、入れられて…野球部で…」
「うん。それで今、ここにいるんだよな、三橋。」
三橋の言葉を遮った。田島はマトを見ながら言う。
「三橋はスゲーよ。」
それぞれ、庭にあるマトを見る。
「一人であれだけやって、あのコントロールをつけたんだ。誰にでも誇っていいんだぜ?」
「でも…」
「うん。確かに中学校時代は酷いことをしたかもしれない。」
泉が律儀に飲んだ後キャップを閉めながら言う。
「でも、三橋。」
浜田が声を出す。
「もう、義務教育でもない、自由な「高校」なんだぜ。」
「自由……?」
きょとん、とした三橋にさらに浜田は話しを続ける。
「そ。自由。休もうが退学になろうが、宿題忘れようが授業中寝ようが、部活やろうが、もう「自由」なんだ。」
「浜田、たまにイイコト言うなー。」
ぼそっと田島が呟く。
「たまにじゃねぇ、ダブりぶん、お前らよかオトナなんだよ!」
ははははは。と高笑いしてペットボトルに口をつける。
「ああ、そだ。自由で思い出した。」
泉がまたキャップを開けながら言う。
「モモカン…監督から三橋へ伝言。「いつでも「見学者」として来て」だって。」
「え……」
不意打ちをくらったような三橋の顔に田島は続ける。
「三橋、この間は阿部がいきなりブチ切れたからな。あれは止められなかったからな。」
その時、初めてあのいきなり飛び出してきて入部を迫った男が阿部ということを知った。
「あ…阿部くん…って…」
「ああ、ポジション?正捕手。」
何でその問いかけでその答えが出るのか泉と浜田は分からなかったが二人の話は続く。
「阿部は、4月に投手がこなかったことをすごく悔しがってた。」
「………………」
「だから花井…あ、うちのキャプテンな。と沖ってヤツを急遽ピッチャーにして試合に臨んだんだ。結果は…初戦負け。」
こくっと三橋が息を飲む。
「だから、いっちゃあなんだけど、うちの野球部には「エース」がいない。」
田島の言葉にややあって、泉も頷く。確かに花井がとりあえずエースとして動いているが、他の学校に比べると練習不足もありはっきり言ってエースと言いづらい。誰も、そして花井も言えないだろう言葉。重い、重すぎる言葉。
「でも…」
「うん。だから、「見学者」として来てみてよ。」
泉がキャップを閉めながら言う。
「その前に…学校に来いよ。お前を責めるヤツは誰もいない。…犯人は捕まった。お前がやったとは誰にも言わせない。」
浜田が真剣なまなざしで三橋を見る。
「お…オレ………」
行っていいの? 迷惑じゃない? 行っちゃダメじゃない?
目が語っている。迷っている。
「いいんだよ。「自由」なんだから。」
浜田がにっこりと笑いながら最後の一口を飲んだ。
「でも、学校に行くと、オレがいて、田島がいて、泉もいて、そして…野球部がある。ま、面倒な授業もあるけどな。」
そだ、こんな歌があるんだぜ、と浜田が突然歌い出した。
友達はいいな 友達といると 心が落ち着くの
怖い先生に叱られてる時も 慰めてくれるから
友達はいいな 友達といると 何もかも楽しい
学校の帰り おしゃべりをしながら 草笛を鳴らすの
苦しいこと 悲しいこと 困った時には
きっと必ず 相談すると 約束をしたの
友達はいいな 友達といると 心が落ち着くの
怖い先生に叱られてる時も慰めてくれるから
慰めてくれるから
「浜田、意外と歌うめー。」
「カラオケキングと呼んでくれ」
「カラオケキング。」
「…なんだ、その全くやる気ナサナサな言い方は。」
「まんまだよ。」
「そだ、今度カラオケ行こうぜ!」
「いいねー。」
「クラスでカラオケ大会。どうだい、委員長?」
「考えておくよ。」
「………ひっく」
その声に3人はその主に集中する。
三橋は泣いていた。
「何で泣くんだ?みーはし。」
ちょっと慌てたように田島が言う。泉も少し驚いている。浜田も、だ。
「と……とも ともだ…ち…」
泣きながら、三橋は言った。
「そうだよ。友達だよ。」
泉が言った。
「友達だからここまで来たんだよ。」
「オトウトだし。三橋はオレの。」
田島もニヒヒッと笑いながら言う。
「オレもだぞ、三橋。ずいぶん長い間ブランクあいたけど、友達だぞ。」
浜田も優しく言う。
「と…ともだち………」
ぐすっ、とまた三橋は泣く。辛い涙ではない。嬉しい涙だと思う。
「そ。泣くなっ…ては言わないよ。でも、ここに、オレたちがいるぞ。」
泉が言う。
「トモダチ、が、な。」
うん。うん。と三橋が頷いた。何度も、何度も。
それを見ながら、3人は何か言いたいけどなんと言えばいいか分からない気分になっていた。語彙が、ボキャブラリーがあれば。誰かいい言葉をかけられるヤツがいればよかったんだけど。あいにく全員(野球)バカだ。