「急に廉が学校行きたくない。って言い出したから…ちょっと心配してたの。でもお友達が来てくれるなんて…。」
凄く香りの良い紅茶と見るからに美味しそうなクッキーを出されて「うまそう」状態に入っている田島を除き泉と浜田は話しを聞いていた。
ぱすっ
「あの子、やると決めたらてこでも…」
ぱすっ
「本当に困っていたとこ…」
ぱすっ
「あ…あの…」
浜田が声をあげた。瞬間。弓から放たれた矢のごとく「いただきますっ」と言ってクッキーに手を出そうとしていた田島の手をばしっと手加減なしでぶっ叩いて泉は浜田を促す。訊ねたいことは多分一緒だろう。
「さっきから庭から音が聞こえてるんですが…?」
その言葉に三橋母は慌てた。
「あら、あの子、また始めちゃったの!さっき無理矢理休ませたばかりなのに…。」
その言葉に3人は顔を見合わせる。
「何をやってるんですか?」
代表者、浜田が質問する。
「的あて、よ。」
ため息をつきながら三橋母は言った。
「もう、朝から晩まで、私が休ませないと何かに取り憑かれたかのように延々とやっているから仕事もちょっと休んでいるのよ。」
あ、でも、と三橋母は続ける。
「友達が来てくれたなら、休んでくれるかしら。ちょっと買い物行きたいんだけど、廉をちょっと休ませてくれない?」
学校に行くように説得、という言葉は出てこなかった。ただ、子供の体の心配をする母。その言葉に3人は「はいっ。」と答えた。
玄関から靴を持ってきて、庭に降りる。高級住宅街の庭、だ。
だが、そこを少し歩くと変なものが置いてある。
黒いガムテープが貼ってある、大きくはないが小さくもない…それはそう…ストライクゾーン。
ぱすっ
右の端のガムテープにその音の主が受け止められて止まる。そして落ちる。
ぱすっ
今度は左の下のガムテープが受け止め、落ちる。
3人は、無言でそれをながめていた。
…と。一番最初に動いたのはやはり田島だった。
いつ、どこから用意していたのか、キャッチャーミットで右端下に行く球をキャッチしたのだ。
「ひゃっ!」
これは三橋でなくても驚く。泉、浜田も驚いた。
「へっへーん。」
三橋に球を投げ返しながら楽しそうに田島が言う。
「すっげーな、これ。」
「う……………あぅ……………」
いきなり父母以外の者が来たのだ。…しかも…同じ学校の…………
「これで練習してたんだー、すっげーなー、お前。」
三橋側からみたガムテープは、きちんと9分割の位置にマークがされている。そこしか汚れていない。それがどれだけ難しいかここにいる者は全員知っていた。
「ぁ………ぁ……う?」
「あ?なんでオレらが来たかって?そりゃトモダチの心配しねーヤツなんていねーよ。」
なぁ、と後ろにいた二人に同意を求める。うん、うん。と頷きが返ってくる。
「それになー、お前の昔のトモダチ連れてきたんだぜー!」
ムカシノトモダチ?
三橋の顔にでかでかとその言葉が浮かび上がった。田島がすかさず浜田を押し出す。
「三橋………えーっと、ギシギシ荘、おぼえてっか?」
ちょっとあって、不思議そうに頷きが返される。
「ギシギシ荘の浜田…って、覚え…ない?」
三橋の顔が「!」のあと口が「○」になって最後にえぐえぐと泣き出した。
「は…ハマ、ちゃん?」
「そ、ハマちゃんその人。」
えっへん、と浜田は胸を反らせた。
「ま、ここで立ち話もなんだから、座ってはなさねーか?」
田島の意見もごもっとも。ということで、全員、庭から居間へとあがった。