「なぁ、たじ…」
「…よし、と。三橋の見舞い、行くだろ?ミーティング休むって、今花井にメールしといたから。」
こういう時は素早い。泉は天井を見ながら思った。
田島も泉も所持金は500円に満たなかったから、財布代のほうがかさんでしまってちょっと悔しかった(他の部員に少しカンパしてもらえたので良し。ただし阿部は鼻で笑って1円ずつくださった。あの笑顔が少し憎い)が、中には3万も4万も入れてる馬鹿もいた。何使うんだ?とひそひそとあちらこちらで話しが飛び交う。
「ああ、勿論行くよ。」
「あ、それ、オレも混ぜてくれ。」
突然、二人の背後からぬっと出てきた。小さい二人はちょっと驚いた。驚いて…先に反応したのは泉だった。
「浜田、てめーがあん時いなかったから…」
「仕方ねーだろ?コケて捻挫したんだから。」
クラスの委員長、浜田だった。
「で、頼みなんだけど。オレ一人で行くと何か怖がられるような気がして…。」
確かにそうだ。
二人はふぅ、と今までのことを思い出し、了承の意を伝えた。
「サンキュ。じゃ、放課後な。」
浜田はそう言うと、二人から離れていった…。
クラスの連絡網で三橋の住所を見ると、「あ、意外とオレん家から近いな。」と田島が言った。なら楽だなー。なんせこいつチャリで1分だもんなー。とか思いながら、泉と田島と浜田は自転車を押しながら放課後の道を歩く。
そして、田島の案内する道に入ると…家の様相が変わってきているのが泉にも浜田にも分かってきた。
「…なぁ、泉くん?」
「なに?浜田くん。」
一人で先に行っている田島を見ながら二人で会話する。
「ここって、高級住宅街っていいません?」
「ハハハ。オレも今そうおもってたのですよー。」
二人とも声が乾いている。
「そーいえば。」
泉が立ち止まる。それにあわせて浜田も立ち止まる。
「…三橋のじいちゃん、群馬の私立校の経営者…」
「それって、いわゆる「オカネモチ」?」
あははははははははははは…
乾いた笑い。
そんな間にも、田島は家なんかどーでもいい感じで表札探しをしている。そして
「あったぞー!」
少し離れていた二人に怒鳴った。閑静な高級住宅街に田島の声がこだまする。慌てて二人は田島のもとへと向かう。
「んじゃ、いっきまーす。」
お前、緊張感ないんかよ?という泉と浜田の無言の視線を夏のUVカットの化粧品のようにはね返し、ボタンを押す。
ピンポーン
はーい、という声に浜田があれ?という顔をする。
そしてドアが開いて、母親と思わしき女性が出てきた瞬間、浜田は思わず指さして言ってしまった。
「み、三橋のおばちゃん!」
う?、え?、は?と三者三様の声と視線が浜田に突き刺さった。
「え、えーっと、どこかで…?」
三橋母も驚いている。それはそうだ。いきなり「おばちゃん」よわばりされることはないだろう。普通。
「あ、オレ、浜田…ハマちゃん…えーっと、ギシギシ…山岸荘の時の…」
「えっ!」
三橋母絶句。絶句三橋母。
「…あのハマちゃん…こんなに大きくなっちゃって…ねぇ。そうよね…廉も大きくなったんだものね…。」
ややあって、三橋母は少し涙ぐむ。彼らに交差する歴史があったのだ。
んでもって、浜田は怖じ気ついていた。左横と後ろからの厳しい視線に。
「ハマちゃん、廉と一緒のクラスなの?あら…?」
「西浦高校10年ぶりのダブりです。こいつ。」
泉が刺々しく浜田をつつく。
「あらあら。そうだったの。」
ここではなんだから、あがってちょうだい。という三橋母の言葉に全員が頷き、自分の家の倍から3倍もある三和土にあがった。
高級住宅だ。セレブだ。
この時は3人、同じ感想を抱いていた。