「どーせ負け犬が登校拒否ってヒッキーになってんだろ?儲けた金でゲームでも買って、さんざ遊んでるんだろ。」
と、冷めた目で言ったクラスの者に田島は掴みかかった。
「三橋のどこが負け犬だって言うんだよ!話したことすらないくせに!」
田島は本気で怒っていた。もう三橋が休んで1週間。
「よせ、田島!」
小柄でも筋肉はついている。それに…
「4番のお前が不祥事おこしたら来年いけねーんだぞ!」
その言葉に田島ははっとする。掴んだ襟を外す。
「てめぇらは知らねぇだろうけどな、三橋はあんなことするヤツでも負け犬でもねぇよ。」
口を開いたのは泉だった。
「野球知ってるヤツはいるだろ?あいつからヒットとれたヤツ、この中にいるかよ?」
ヒットどころか…三振の山だった。体育教師も目を丸くしてた。
「あいつはな、指示した所に指示した投げ方で正確に投げてくるんだ。」
9分割 言おうと思ったが、やめた。それを言うと「何バカなことを!」と言って収拾がつかなくなる。
「この間、野球部に見学行った時投げさせたら、全て同じ方向、角度から、ミットへと入ってきた。…てめぇら、分かるか?あのコントロールは一朝一夕ではつかねぇんだよ!それを負け犬?ヒッキー?ふざけるんじゃねーよ!」
泉のドスのきいた声にたじろぐクラスの男子。
その時、ガラッとドアが開いて、担任と生活指導の教師が厳しい顔で入ってきた。
そして三橋を糾弾していた者数名の名前をあげ、生活指導室へ来るように告げた。
えっ
全員が声に出したり出さなかったりしながらも異口同音でその言葉を言った。
今までさんざん三橋をバカにしていた者たちの顔から顔色がなくなっていく。
教師たちの「早く来い!」という強い声に負け、すごすごと彼らは出て行った。
「次の授業は自習だ。」
次の授業は担任の授業だったことを今更ながらに思い出す。
キーンコーンカーンと間抜けた音が妙に耳に障った。
昼休み、担任と生活指導の教師立ち会いのもと、彼らのロッカーと机の横にかかっていたバックを開けると、サイフがでてきた。しかも自分のクラスだけでない数、相当数だ。彼らは一様に項垂れ、処分が決まるまで自宅謹慎となった。どうやら彼らはグループで他のクラスにも忍び込み、荒稼ぎをしていたらしい。
中身はないが、店舗のスタンプカードや「大事なアノヒトv」の写真が入ったサイフがもとに戻ってくると、安堵した顔つきになる。
そして、見るのだ。
スケープ・ゴードとしてかり出されてしまった者の机を………。