「みーはしー、疲れた?」
「う うう、ん。へ へいきだ よー。」
確かに全然息もあがっていない。
「なら2の位置にシュート、5球!」
コクン、と頷いて、振りかぶって、投げる。
スパーン
あらかじめ決まっていたかのように、田島のミットに吸い込まれる。
「やっぱスゲーな、みはしー。」
「そ、そう… かな ?」
田島から球を受け取りながら三橋は返す。再度振りかぶって、投げる。同じ方向、同じ軌道で田島のミットに入る。
「そーだよ。いつやってんの?」
「い…家。」
スパーン
「家にいる時かぁ。ひとりっこだよな。壁にでもあててんのか?」
「ま…マトがあるか…ら。」
スパーン
「へー、やっぱり9分割してあるのか?」
「う… うん。」
スパーン
「すげーな!すげすぎっ!」
スパーン
「そ…んな… ウヒ」
そんな時、いつしか見ていた花井の肩を叩く者がいた。振り向くと、正捕手が立っている。
「お、阿部。」
「見学者だって?オレは全く聞いていなかったぞ。」
少し険がある言い方に流石に花井も慌てる。
「き、急に決まったから。さ、栄口もさっききいたんだよ、な。」
おねがい、「うん。」といって〜
花井の視線に栄口も「うん。そうだよ。田島と泉が突然連れてきたんだ。」と答える。
「そうか…。」
楽しげにやっている二人。球速は遅いがコントロールは無茶苦茶良い。さっきからしている快音もこの二人がだしている音。
カチン☆
阿部の中で何かキた。
「みはしー、ちょっと休憩しよーぜー。」
「う うん。」
この格好だと足がパンパンになっちゃって…ご ごめんなさ い。いーのいーの、あやまることないって。
ベンチへと向かう二人を見つつ、花井に問う。
「見学者…にしては、ずいぶん厚遇してるな?」
そりゃあ、もう。餌付けしましたから。
とは言えず、花井は曖昧な笑みで栄口に視線を動かす。またもや「お願い」視線を受け、栄口もため息をつきながら答える。
「あいつ、この間の体育の授業で野球で投げて、泉と田島を押さえたやつ。」
「はぁ?」
阿部は耳を疑う。泉はともかく、田島も押さえたってどうよ?
「そんなヤツが何で野球部来ない?」
「だーかーらー、今日は見学で…って、阿部、どこ行く!」
阿部の足はずんずんとベンチへと向かっていく。
「待てー!あべぇぇぇぇ」
花井の悲壮な声が耳に入ってきたが、阿部は聞こえないふりをした。
ベンチに行き、投げる時がどうのこうの言い合っていた田島と三橋の前に、立つ。
「阿部…。」
げっ、と田島がうめいた。三橋はもうキョドっている。
阿部は田島のほうを見向きもせず、三橋のほうを向いて、キョドっていることなどお構いなしに言い放つ。
「お前、あんな投球できるなら、さっさと野球部に入部しろ!」
あちゃー、と田島が頭を抱えた。三橋は……
「…め…」
「はぁ?」
プチッと阿部の何かが音をたてた。
「何だよ!言いたいことあればさっさと言え!」
大声で怒鳴られた後の三橋の行動は、いつものトロさと正反対だった。
「ダメ…です。ご、ごごめんなさっ…いっ…」
立ち上がり、田島のほうを見ずに、そのままグラウンドから走り去ってしまう。一瞬田島が見たのはもう泣いている三橋の横顔。それが見る間に背中になり、あんなに悩んでいたグラウンドの出入り口から走り去ってしまう。そう言えば短距離走、学年の10位以内に名前があったようなことを思い出していた。…と。
『なにやってんだよ!阿部っ!』
走ってきた泉と、その場にいた田島の声がシンクロして2倍の大きさの怒鳴り声として耳に入ってきた。それまで呆然としていたのにようやく阿部は気づいた。