「三橋ってばさー。」
 軽いストレッチと言って柔軟をやっていると田島が話しかけてくる。
「な…なに ?」
 教室ではかなり懐いたと思った(弟だし)けど、グラウンドに来てから少し緊張気味のようだ。でもそんなことはお構いなし。
「身体、やらけーよなー。」
 座って両足を開いての前屈で、田島は軽く三橋の背中を押している。三橋の額は地面すれすれまできている。ついでに体は地面にぺったりとくっついている。
「そ… そ そうか な?」
「うん!スゲーと思う!」
 にっと笑った田島に三橋はぎこちない笑みを浮かべた。
「さ、キャッチボールキャッチボール…。お、三橋、マイグラブ持ってきてるな。」
「う うん。」
「よっしゃ、やろうぜ。」
 近くのカゴに入っていた硬球を手に取ると、田島はにしし、と笑った。


 花井と栄口は昨日田島からのメールで見学者が来る、ということを知っていた。
 田島が走っていって、半ば強引にグラウンドに入ってきたその姿は…細くて頼りなかった。
「花井、あれ、誰?」
 沖が訊ねてくる。先日の9組の…と言おうとしてやめる。
「言い忘れてた。見学者。」
 そう言えば、どこのポジションか全く聞いていなかった。と花井は思い出した。田島のメールは用件のみでたまにその用件もかなりはぶく。送ったら送ったで返信はない。面倒この上ない。
 見学者、けんがくしゃ…とざわざわと周囲がざわついている。こんな時期に一体…とか各自がバラバラになって話しを始めている。
「おい、練習すっぞ!早く位置につけ!」
 見学者は観客席の観客の一人だ、と花井は付け加えた。まぁ、ジャージ姿の観客はあまりいないと思うが…。
 ちら、と見てみる。田島と一緒にその「見学者」はキャッチボールをしている。軽い肩慣らしというところか。
 そういえば、餌付け作戦は今も敢行中なはずで…確か…その…
「田島が打てなかった相手!」
 思わず口にしてしまった。慌てて周囲を見渡すが、とりあえず誰も聞いていなかったようだ。
 なら、あの田島並に小さくてヒョロいのが…投手?
 花井の頭には、疑問符の嵐が舞っていた。