「みーはしー!」
 その言葉に三橋は最初何だか分からなかった。ただ、自分の名前を呼ばれたような気がしてみたら…机の前に影が落ちている。
「あ…」
 えっと…名前…そばかすの…
「新商品なんだ。食おうぜ。」
 とん、と置かれたものは「甘栗かけちゃいました」というもの。甘栗も、チョコレートも、三橋は好物だ。
「たーじーまー。」
 後ろからもう一人やってくる。えーっと、にきびの…
「泉、いいだろー。」
 そだ。田島くんと泉くんだ。
 この所、良く話しかけてくれるから、気になっていたのだ。
「お…オレ………」
 目の前には「甘栗かけちゃいました」がでーんとおいてあり、「食べてたべて」と言っている。だけど…
「オレも食べたことねーんだよ。三橋、一緒に味見してみよーぜ!」
「そうそう、オレも!」
 田島の言葉に追随する泉の言葉。そして「味見」という言葉にちょっと惹かれている三橋。
「あじ…み…」
「そそ、味見あじみ。不味かったらはき出しちゃっていいんだから。」
 泉の言葉に三橋ははっとする。
「だっ、だめだ、よ。出されたもの、は食べなきゃ!」
 今、初めて会話が成立した…泉としてはちょっと不本意だが。
「そだよなー。泉、不味くても食べろよ。」
 ニンヤリと笑いながら田島が手早くパッケージを開ける。行儀良く整列したチョコレート掛けの甘栗は、美味しそうで、しかも一番お腹がすいてる時間。
「いただきまーす。」
 田島がぽいっ、と口に入れる。

むぐむぐむぐ、ごっくん。

「うんめぇ!」
「田島、てめぇ…。」
 三橋と話をする為のアイテムだろーが、と思っている泉の手にも既にそれは乗っかっていて、勝手に口に入る。

むぐむぐむぐ、ごくん。

「あ、美味しい。」

 よし、ここで決行!

「三橋もどうだ?」
 いきなり水を向けられて、キョドる三橋。三橋、キョドる。
「お、おおおオレ、食べて…」
「…いーんだぜ。ほら、口開けて。」
 田島が楽しげに菓子を摘んで三橋の口元に持ってくる。

 いいのかな?いいのかな?

「…い、いの?」
「いいんだってば。ほーら、あーん。」
 男同士で「あーん」もねーだろ、と泉は思うが、三橋はそのまま田島の指を食べないようにぱくりと食べた。

 むぐ。
 むぐむぐむぐむぐ…ごっくん。

「な、美味いだろ?」
 田島がえらそーに言っている。
「う、うん。おい、しい。」
 ならもう一個、と田島が三橋の手に乗せる。三橋も今度は遠慮しないでぱくりと食べる。
「うまいな。」
「うまい、ね。」
 ウヒ、と笑い声があがった。入学式から今まで、彼の笑顔を見た者の初めてとなった。
「い、いずみく…ん、も…」
「無論、食べてるぜ。」
 しかし、本当に美味しい。
「甘栗シリーズ、もしかして、三橋好き?」
 田島の問いに「甘栗、好きだ、よ。」と控えめに答えた。
「チョコも好きだろ。」
 泉の言葉に三橋はウヒと笑いながらかすかに頷く。
 お菓子の話に田島と泉が入り、三橋もそれに少し参加して、「甘栗かけちゃいました」が全部なくなった所で4時間目のチャイムが鳴った。
「それじゃ、三橋、あとで一緒にメシ食おうぜ!」
 田島の言葉にびっくりした表情で三橋は口をぱくぱくさせる。
 「うん」も「ダメ」も言うか言わないか悩んでいるうちに、教師が入ってきた。