「あー」
タタタタっと走り去っていく足音を耳にしながら泉が声を出した。
「三橋、泣いたなー。」
「そーだなー。」
うんうんと頷く泉と田島は同時に泣かせた相手に視線を合わせて…ちょっと困った顔をする。
阿部がそこに突っ立っていた。
三橋を引き上げた手を見ながら。
「おーい、阿部、邪魔。」
そんな瞬間の細切れを繋げたのは水谷だった。後ろに花井も控えている。何だ何だと背伸びをして水谷を通り越して阿部を見ている。
「あ、ああ…ワリ…。」
教室へと入る。田島と泉たちがいる場所近くの席に腰をおろし、さらにじっと手を見る。
「なぁ、泉。」
「なに?」
準備万端。泉の目はあらゆる言葉への対処が入っていた。
「今のあいつ…何か部活やってんか?」
そらきた!
「帰宅部。」
「………そうか?」
何故そこで疑問型?
「指のいたる箇所にタコつくるくらいに熱心に部活やってるとしたら、すげぇウゼぇヤツだな。」
「そーだな。」
その人が田島から2回三振奪った人です。
口が裂けても今はイエマセン。
ぐっと押し黙る泉。
「すんげー静かなヤツだから、いじめんなよー、阿部ぇ。」
田島の言葉にムッとする。
「いついじめた?」
『今。』
異口同音に泉と田島と巣山と沖と栄口が答える。うっとつまる阿部。
「…んじゃあ、できる限り、あいつに近寄らないようにすればいいんだな。」
阿部の言葉に、少しだけ怒気がこもっている。
「まーそうだねー。」
何故か栄口が答える。
「お前が近寄るようになるかもなー。」
小声でぼそっとつぶやいた言葉は阿部以外の周囲に届いた。
数名は頷き、残りは心の中で頷く。
「泉、ちょっと来てくれ。」
花井の言葉に泉は立ち上がる。
「何だ?」
「手ェ出せ。」
手を出すと105円。ちゃりん。
「一人一人から集めるのは面倒だから、各自当番制で。」
餌付け作戦、実行。
「りょーかいしました。たいちょーどの。」
「誰が隊長だ!」
あはははははー、と泉は笑った。
さぁ、明日から、田島と一緒に三橋攻略戦だ!
ニンマリと、少しの不安のニンマリを、泉は顔に浮かべた。