「うーん、それは難しいねぇ。」
どう見ても「ちっとも難しくないだろー。」という表情をしながら栄口が言う。昼休み、1年1組。同クラスの巣山と9組コンビと花井が栄口の机に集まってガヤガヤと話している。7組には阿部がいる。阿部にこのことが知られれば、何がなんでも三橋を入部させようとするだろう。それこそ殴ってでも引っ張っても泣こうがわめこうが縛ろうが ヤツならやりかねん それだけは避けたい。 全員の意見の一致だった。
「でも。」
巣山の言葉に全員の視線が集中する。ちょっとそれにビビりながらも巣山は話しを続ける。
「それ、田島が一番うまくできそーじゃねぇか?」
「オレ?」
「そ、お前。」
はぁ?と田島が首を傾げる。
「三橋の言動と行動とを考えると…こう、捨てられた子犬や子猫みたいじゃねーか?」
なーる。と泉が呟く。
「花井、今日から阿部を除く部員全員に一人10円。」
「はぁ?」
栄口の提案についていけない花井。
「タイトルは…エース獲得基金!」
「単純にエサで釣れってことだろ?」
ぼそっと泉が呟いたところで栄口がにぃっこりと笑った。泉、固まる。固まる、泉。
「あいつだって、とりあえずは高校生だ。田島みたいに年中飢えているわけでもねーだろが3時間目が終わったあたりは腹が減っているだろう。そこで菓子をちょいと出してやる。…どうかなー。」
その言葉にキラキラと目を輝かせたのは、無論田島だ。
「まーかせておけって。子犬と子猫の躾けは昔から得意だったぜ!」
いや、躾けではありませんから。
全員がつっこむ。心の中で。
ちょっと頭を抱えながらも、花井は9組コンビに向けて言う。
「いいか、田島、泉。挨拶は毎朝と帰る時。んで、餌付け。これがお前らに課したメニューだ。…できるか?」
二人は顔を見合わせて、花井に「うん」と頷く。
「じゃーさー、帰りはコンビニ寄って、何買うか考えないとなー。」
「そーだねー。三橋の嗜好って全く分からないからなぁ。」
「意外と暴君ハバ○ロとかボリボリ食べてたりー。」
あははははははは。
楽しげに9組コンビが笑う。その時だった。ドアが開いたのは。
「栄口、ここに花井が って、なんで田島と泉も?」
阿部、出現。
泉と田島は楽し笑みを引っ込めて「あは、あははは。」と乾いた笑いを漏らす。
「なんだ?花井がどうしたって?」
動揺しまくっている花井にワンクッション置くために栄口が助け船を出す。
「ああ、モモカンとシガポが双方ともに用が入ったから、今日はミーティングに変更だから教室はどこにする…と言おうとしたが…。」
「7組は?」
「既に漫研にとられた。」
巣山の問いに何故か悔しそうに阿部が言う。理詰めで攻めた阿部も、腐女子と柑橘系男子には勝てなかったようだ。
「1組〜5組…は、今日はダメなんだよな。ワックス掛けの業者が入る。」
巣山の説明に栄口が頷く。3ヶ月に一度、転びそうになるくらいにぴかぴかにタイルが磨かれ、ワックスがかけられる日がある。教室数が多いので分けて行うのだが、今日は1年1組から1年5組までがその対象に入っているらしい。
「じゃあ、9組だな。伝達しておいてやるよ。」
言いながら、阿部は教室を出て行った。そして、全員恐慌状態に陥る。阿部が9組を使うということ。9組には三橋がいること。
「三橋、今日掃除当番だっけ…?」
「さぁ…?」
首を傾げる9組コンビの耳に、予鈴のチャイム音が入ってきた 。