「…で。」
花井が9組コンビに尋ねる。そいつはどうだった?と。
『スゲー奴』
異口同音に言った。
「まず、サインを送るだろ?」
「ちょーっとまった!」
そこに口を挟むのは栄口。
「体育の授業の野球にサイン持ち込んだのか?野球部の?」
少し慌て気味。それはそうだ。野球のサインはその国の暗号なのだから。
「ンなわけねーだろ!グー・チョキ・パー・サバラ」
『…サバラ…?』
「…ってめーら、「まことちゃん」読め。」
少しふて腐れたように田島が言うと話を続ける。
「で、サイン送る、ミット構える。全く同じ角度と方向から球がやってくる。ミットは全く動かなねー。」
「…とんでないコントロールだね。」
栄口がちょっと半信半疑口調で言う。そうだろう。素人…いや、普通のピッチャーとしてもありえない。
「で、また泉おさえて、完封。」
田島がまたふてくされている泉のほうを向きながらニヒヒ笑いながら言う。
『はぁ?』
部長と副部長の片割れが同じ声をあげた。
「来週もあいつ投げるから、今度はオレ打とうっと♪」
るんるんるん♪と踊り出しかねない田島に泉は恨みがましい目つきでその動きを追う。
「なぁ、なんでそんな奴が、野球部に入ってこなかったんだ?」
巣山の言葉に田島の動きがピタリと止まる、他のメンバーは田島と泉にそれぞれ視線がいく。
「…そういえば…」
泉が少しして口を開く。その場にいた花井、栄口、田島、巣山、沖、西広が泉の発言を待つ。
「…そいつ、オレらが話しかけても全うに受け答えしてくれないんだ。」
「…どういうことだ?」
花井の質問に田島が答える。
「話しかけるとキョドる。話しても視線は合わない。大きな声出すと泣き出す。」
「泣き出す?」
はぁ?と沖が声をあげる。
「そ、泣き出すんだよなぁ?田島。」
ぎろりと田島を睨みながら泉が言った。恐らく大きな声をあげて泣かせたのは田島だろうと、全員が納得した。
「んでもって、実は、オレもなんだけど泉もそいつのこと、全然忘れてたんだよ。クラスメイトで顔と名前が一致しなかったというか…なんつーか…こう…」
「いてもいなくても同じような奴?」
「そう!それそれっ!」
西広の助け船に指をさしながら田島が答える。
「だから、名前思い出すのに少し時間かかっちゃってねー。」
泉もぽりぽりと頭をかきながら言う。
「オレなんか全く知らなかったもんねー。」
自慢することじゃねーだろ。
その場にいた全員が心の中でツッコミを入れた。