うう、あったかくて気持ちいいな…と思いながらレンが目をあけると、目の前に田島がすかーすかーと寝ていた。気配に敏感なレンでも、何度もやられたら慣れてしまう。慣れとは本当怖いなとかぼんやり思っていると、田島の目がぱかっと開いた。
 少しぱちぱちまばたきして、自分の視線とあうと、ニカーと笑った。
(おはよ、レン)
 きゅ、と抱きついてきて、レンは少し驚いたものの、すぐに戻る。慣れって怖い!
「おはよう、た じまくん。」
 レンも朝の挨拶をすると、田島はますますぎうーっと抱きついてくる。流石のレンもちょっと苦しいと思った時、しゃあああっとカーテンが開け放たれた。
「たーじーまぁぁぁ…」
 そこにいるのは怒らせると怖い二人が立っている。
「レン、パジャマを変えよう。メシは柔らかいモノらしいぜ。」
 パジャマをかえることはやぶさかではないが、朝ごはんが普通の食事でないと分かるとテンションはぐーっと下がる。
「医者が許可だせば昼飯は普通のになるかもな。」
 落ち込んだレンに泉はあわてて付け足す。
「お医者さん…テスト!」
「それは午後から。午前中はオレらの話を聞かないか?2ヶ月間寝ていたから色々変わったんだよ。」
 栄口がレンに気付かれないよう田島をベッドから落としつつ言う。ぎゃっという声があがったが、とりあえずテストの話でテンパってるレンには聞こえなかった。
「あ…阿部く、んたちは?」
 レンの質問にああ。と泉が答える。口では大学生組は全員まだ起きていないことを話し、足は田島の怪我してないところを踏んづけていた。
「あいつらも朝ごはんの時間になったら起きるさ。」
 それがどれだけ難しいかはさておき、栄口は下着とパジャマと身体を拭くためにお湯で濡らしたタオルをレンに渡した。
「拭きづらいところがあったら言って!」
「は い。」
 泉の手でカーテンが閉められると、待っているのはお仕置きタイム。
 レンが身体を拭き、下着とパジャマを交換して、カーテンをそろそろとあけると…
「あ、朝食もうすぐだよ。」
 栄口と泉しかいなかった。
「田島くん は?」
「大学生組と寝てる。」
 いつもの泉の口調にあっさり騙され、田島くんも眠かったんだとか思っているレンを見て、ちょっとだけ良心が痛む二人であった。

 まさに病院食!という粥やら柔らかい朝食を、レンはさっと完食し、うまそうと隣の泉の普通の病院食を見ている。あげたいのはヤマヤマなのだが、医者の診察がないと流石にできない。心を鬼にして完食した。栄口も無言を通している。泉と同じ考えに至ったのであろう。
 三人の思いは一つ。

医者の回診まだか…

 であった。
 ちなみに田島のぶんは大学生組の部屋に置いてきた。
 あいつの場合、レンにはい、あーん。うまいか?なーんてなことをやりかねない。げっそりした沖にその事を話して、食事ののったトレイを手渡したのだ。今頃花井か沖、水谷あたりが餌食になってるかもしれないが、西広がいるから大丈夫だろう。
 レンのと自分の食器が乗ったトレイを片付け用のカートに置く。栄口も同様に置いて、ちらりと隣の病室をみやった。

田島、てめ、オレの卵焼きとんな!
残してるんだろ?残すならオレが食べる!
誰が残してると言ったよ!
 食べ物の事なので水谷も容赦ない。田島は予想通りの行動をとっていた。

「………」
「………」

 泉と栄口はお互いを見ると
『はぁぁぁ…』
 ため息をついたのであった。


 医者の回診は最後であった。レンがどれだけ待ったか代わる代わるやってきては「落ち着け」系の言葉を言っているので、レンは少し落ち込んだ。落ちすぎだぞ。と泉が言うものの、「オレ、落ち着きがない…」と最後には目尻に涙を浮かべる始末。これには泉も栄口も困り、仕方がないので隣に行って田島を引き取ろうということにした。泉が向かうと、田島のロールケーキが出来ていた。ご丁寧に猿ぐつわまでされているところをみると、西広と花井と阿部が手を組んだようだ。やり方に容赦が全くない。田島引き取ると言ったらこのままでよろしく。と笑顔の西広に言われてしまった。見かねた巣山と沖が手を貸してくれたが、ロールケーキのロール部分である布団を結わいている紐は決して外そうとはしなかった。
三人がかりで田島をベッドに落とすと、巣山たちは戻っていく。
 田島の瞳は怒りでぎんぎんぎらぎらだ。
「いいか?レンが落ち込んで泣いてる。」
 一瞬で田島の瞳から怒気が抜ける。
「今から紐はずすからな。」
 うんうん頷く田島に、二人は頷きあって、紐を外した。

 怒りも完全に忘れ、田島はレンに駆け寄った。
「た じまくん」
 落ち込んでいるレンは少し驚いた顔をした。
 さもありなん。泉と栄口は「田島は夜中の出来事を聞きに隣の病室へ行って、朝ごはんもそっちで食べるって。」と話を聞いていたのだ。
「栄口や泉がいじめたか?ん?」
 それに関してはふるふると首を横に振る。
「病院、嫌だよなー。早く退院できりゃいーのに。」
 ぶうぶう言う田島にレンの涙は完全に引っ込んだ。流石、田島パワー!と栄口が驚き、泉は慣れた。と生ぬるい視線で会話をしている二人をみやる。
 さっきまで静かだった廊下が急ににぎやかになった。
「レン!回診だ。昼飯と退院のために頑張るぞ!」
 おー!と二人で拳を天に向けてはりあげた時、担当の医者と研究者たちがわいわい言いながらやってくる。
 全員が私服姿に、どれだけレンが大事にされているのかが分かる。
「三橋くん、おはよう。昨日は寝られた?」
 診察が始まった。

ためこみすぎ……

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