医者の回診は最後であった。レンがどれだけ待ったか代わる代わるやってきては「落ち着け」系の言葉を言っているので、レンは少し落ち込んだ。落ちすぎだぞ。と泉が言うものの、「オレ、落ち着きがない…」と最後には目尻に涙を浮かべる始末。これには泉も栄口も困り、仕方がないので隣に行って田島を引き取ろうということにした。泉が向かうと、田島のロールケーキが出来ていた。ご丁寧に猿ぐつわまでされているところをみると、西広と花井と阿部が手を組んだようだ。やり方に容赦が全くない。田島引き取ると言ったらこのままでよろしく。と笑顔の西広に言われてしまった。見かねた巣山と沖が手を貸してくれたが、ロールケーキのロール部分である布団を結わいている紐は決して外そうとはしなかった。
三人がかりで田島をベッドに落とすと、巣山たちは戻っていく。
 田島の瞳は怒りでぎんぎんぎらぎらだ。
「いいか?レンが落ち込んで泣いてる。」
 一瞬で田島の瞳から怒気が抜ける。
「今から紐はずすからな。」
 うんうん頷く田島に、二人は頷きあって、紐を外した。

 怒りも完全に忘れ、田島はレンに駆け寄った。
「た じまくん」
 落ち込んでいるレンは少し驚いた顔をした。
 さもありなん。泉と栄口は「田島は夜中の出来事を聞きに隣の病室へ行って、朝ごはんもそっちで食べるって。」と話を聞いていたのだ。
「栄口や泉がいじめたか?ん?」
 それに関してはふるふると首を横に振る。
「病院、嫌だよなー。早く退院できりゃいーのに。」
 ぶうぶう言う田島にレンの涙は完全に引っ込んだ。流石、田島パワー!と栄口が驚き、泉は慣れた。と生ぬるい視線で会話をしている二人をみやる。
 さっきまで静かだった廊下が急ににぎやかになった。
「レン!回診だ。昼飯と退院のために頑張るぞ!」
 おー!と二人で拳を天に向けてはりあげた時、担当の医者と研究者たちがわいわい言いながらやってくる。
 全員が私服姿に、どれだけレンが大事にされているのかが分かる。
「三橋くん、おはよう。昨日は寝られた?」
 診察が始まった。

 一通り調べあげたところで、田島の助言があり、昼食は見事、普通のものとなり、精密検査と田島への癒し手のテストが終わり、異常がでなければ退院しても良いことになった。これはレンは勿論、他の三人も喜んだ。
 精密検査の前に、テスト、今からやるかい?と研究者がウズウズしていたのを一気に吐き出した。

 答えはもちろん「はい!」

 田島を隣のベッドに腰かけさせ、テストが始まった。

「ちょう、ちょ」とレンが言うと、右手の人差し指に、緑色の蝶が現れた。すぐに羽ばたき、田島の肩にとまる。レンがそしてこっそり全員が力の発動に関して不安だったのだ。彼岸のすぐそこまで行って帰ってきたのだから仕方ない。
「た じまくん。すごい 怪我…」
 ちょうちょを通じて分かる田島の怪我に、レンは青ざめる。
「へーきへーき!」と手をぷらぷらさせるが、レンにはそれは通じなかった。
「ちょうちょ、田島くんを癒せ!」
 瞬間、レンの指先から出現したちょうちょは。
「でけぇ…」
 大きな蝶が出現した。右手の指先から様々な大きさの蝶が現れ、次々と田島の患部に止まった。止まっては吸い込まれるように消えていく。
「おお!」
 何より驚いたのは田島である。手術で一番困難を極めた場所に、一番大きな蝶が吸い込まれ消えたからだ。レンには伝えていなかったが、田島は退院はしたものの、安静を言い渡され、鎮痛剤やら何やら沢山飲んで…飲んだことも全然なくて…ずっと寝っぱなしの生活だったのだ。
 田島は身体の痛みが見る間に消えていくことを感じていた。同時に精度が上がったことにも気付いていた。
 最後に細かい傷用の小さな蝶を出して、レンはふう、と息をついた。
「田島、どうだ?」
 田島も隠す為に厚着をしていた上着をすぽーんすぽーんと脱ぎ、露になった包帯まみれの上半身から、恐る恐る包帯を外していく。
 果たして…怪我を、手術をする前の素肌に戻っていた。その場にいた、全員がひゅっと息を呑む。
「田島くん。三橋くん、午後から精密検査を入れたから。」
 わたわたと医者が看護師に告げながら、研究者はわいわい始めている。
「レン、ありがとな!」
「う、ん!」
 いつものとおり、ぎゅーっと抱きしめられながら、レンも嬉しそうに再度「う ん。」と頷いたのであった。

 昼飯を食べて、二人はそのまま検査となった。レンはともかく、田島も前回のレントゲンを取り出されあーだこーだ。レンに至っては全身を、特に頭を徹底的に検査された。採血の時にうたた寝するくらいだ。他のメンバーも代わる代わる見に来ては茶々を入れてくるが、田島とレンはぼけーっとしている。
 何だかんだで検査が終わったのは晩御飯の時間を軽く越えていた。ぐだぐだになっても腹は減る。入院中のレンの晩御飯をうまそうとか思いながら、メンバー交えて騒いで看護師に叱られた。
 食後の歯磨きをしたレンはベッドに入ると、ぽてんと眠りに落ちてしまった。やはり2ヶ月のブランクは相当こたえているのだろうと考え、メンバーたちは早々にニシウラへと戻った。
 そして次の日、田島は全快。レンは退院という運びになったのである。

ためこみすぎ……

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