8 . 準    備 


 病院に到着後、レン専用となりつつある癒し手研究室はてんやわんやの騒ぎとなっていた。電波を利用した計器は一切利用できなくなっているのだ。文明は進んだが、結局勝つのはアナログなのである。だが、そのアナログも使用する事ができない状況に陥っている。一言で言おう。今の状況では完全にお手上げだ。できるのは二つ。花井が結界を維持させ、フォローに栄口と市原がまわるという事だけ。こんなに人数がいるのにできることはそれだけであった。
 事情をモモカンから大体聴いている。非常に危険な状態だ。とレンを見た医師と研究者たちは三人に告げた。曰く、「危機的状況に陥った癒し手の眠りのデータと一致する」との事。花井はそれだけで顔が青くなる。
 更に田島のほうは緊急手術となり、現在進行中で手術していることを告げられ、青い顔を更に真っ青な顔にさせた花井はおろか、その事を告げた全員が青くなる。あの場にいた栄口の蒼白具合は初めて見るかもしれない…と虚ろなまなざしで花井は思わず見てしまった。
『花井くん。』
 インカムに通信。モモカンだ。
「はい。」
 心の準備もへったくれもなかったので慌てながらも答えると、モモカンはいつもの口調ではきはきと言う。
『田島くんが危険な状態というのはインカム越しに聞いたわ。三橋くんの報告は阿部くんから聴いて、医師たちに伝えておいたから。』
 阿部との通信の後、インカムを常にオンの状態にしておいたのが良かった。恐らく今の会話はこの場にいる除虫屋全員に伝わっているだろう。
「はい。」
 花井は続けて「少し待っていて下さい」とモモカンに言うと、インカムのモードを対個人から複数会話のモードに変えるように栄口と市原に告げる。栄口は報告を市原に教えながらも変更。あちらも同じ動きをしているのだろう。ただ、佐倉だけはどうでるか分からない。だってインカムごしにいつものセリフが聞こえてくるんだもん!
 ストッパーである市原も、何となく分かってる栄口もこっちだ。まあ、河合あたりがどうにかするか。と花井は珍しく楽観的(もしくはあっち側にまるっと丸投げたとも言う…)に考え「お待たせしました。」と告げる。
 早速『田島くんも緊急手術…』と秋丸がつぶやきに『田島は殺しても死なねーよ』泉が鼻息荒く答える。『そりゃそーだね』と水谷も明るく混ぜっ返す。

 声が最後震えていたのが減点だが。

『今、ニシウラと秋丸さん、河合さんに同行…』
『全員で行く!』
 巣山の声に榛名がわけいる。は?へ?と仲沢や西広が驚きの声をあげる。
『全員で行くと迷惑でしょう?』というモモカンに『輸血が必要になるかもだし、事情聴取も一気に出来ます。』と秋丸の援護射撃が入る。
 その言葉に『そうねぇ…』とモモカンも考え始める。
『花井。』
「なんだ?」
 阿部が花井のインカムを除虫屋研究しているヤツと替われと言い出した。慌て近くで集まってあーだこーだ言っている研究者の一人に「ニシウラの『目』から連絡が入っています。」とインカムを渡す。結界を維持しながらだ。かなり大変だがやりとげた。
 さてどうしようと栄口を見ると、「あとで言う」とジェスチャーで返される。そりゃ結界を維持してないといけないけどー。とやるせない思いを浮かべながらも栄口と市原を見続ける。
 話の内容は分からないが、「それなら目と結界士と空撃士でできるかもしれない。」とか研究者が言い出している。なんだなんだと栄口と市原を見ると、二人して何やら顔が強張っている。真っ青な顔色、強張った表情の栄口。水谷がいなくて良かった…どんな時にも茶々入れるヤツの事だ。今回も入れて見事に総スカン食らうだろう。
 阿部のことだ。何かいやらしい作戦でも思い付いたのだろう。あの作戦が決まった時のにやぁりという笑みはいつも引く。ドン引く。
「では、君の作戦でいこう!その作戦しかなさそうだな!全員で来てくれ。」
 研究者の言葉に市原がまんま硬直する。栄口も、あは。と壮絶に乾いた笑いを浮かべた。
「では元の彼と替わるよ。」
 とインカムを外し、はい、ありがとう。と返される。
 こちらこそ、と受け取り、耳につけると、骨伝導のインカムは大騒ぎしている除虫屋たちの声を聞く。
「花井。作戦内容は栄口と市原に聞け。移動許可が降りたから全員そちらに向かう。」
「…了解。」
 完全に顔が強張っている二人にどう問うか頭を悩ましながら、花井はため息をついたのであった。



 まあ、言おう。ぶっちゃけ疲れている。栄口や市原も、恐らくあんな見事なスロープを造り出した高瀬も相当に違いない。
 作戦内容は、血管の位置を『目』が確認(看護師の情報も事前に聴くとか何とか…)し、その位置に空撃士が繭状態の膜を押し、場所が露になった ところで看護師が点滴と有線の機材の端末を繋ぐといった…ぶっちゃけ(もう一度言おう)、疲労満載の作業だ。さしもの栄口も顔がひきつっていたし、市原も硬直していた。高瀬も「空撃士殺す気か!」と言っていた…らしい。市原情報。
 結界士はその位置以外の身体を固定するため、繭ギリギリまでの結界を展開しろとの阿部様のお達しだ。
 仲間を救うのは当たり前だ。当然だ。だが、疲労度を考えているのかあのスカタンは…
「ま、やるしかないね。」
 広いレン専用となりだしているこの癒し手研究室は看護師やらが準備に大騒ぎだが、栄口はパイプ椅子を3つ運んでくるとめいめいに渡した。
「少しでも身体と気合いを休ませよう。花井はファイト。」
「…おお。」
 それには花井も市原も異議はなく、座って少し寛いだ格好をとった。直ぐ様訪れる眠気。やばい少し眠たいと花井が思った時、市原と栄口の会話が入って、不覚ながら笑い転げそうになった。

「あの…『目』の阿部ってヤツ、友達いるんですか?」
「ううん。いない。良かったらなってくれる?」
「すいません。遠慮させて下さい。」
「だよね〜」
「ですよね〜」

 阿部、くしゃみしてもいいぞ。と腹筋ひくひくさせながら花井は思ったのであった。

ボケボケモードに入ってました。すみませんすみません 土下座

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