| まず最初に現れたのは、佐倉と、やはりぐったりしている高瀬であった。 「遅くなりました!」 いや、十分早いだろ。 ここにいる全員が心の中でツッコミを入れる。 ふらふらのよれよれな高瀬が栄口と市原の傍に寄る。 「お前ら良くあの運転で生きてこられたな…」 ああ、大地のバイク犠牲者ここにまた一人… 「お疲れ様。」 「生きているだけ幸福だと思え。」 栄口と市原がそれぞれねぎらいでもなんとでもとれる言葉で労うと、パイプ椅子を用意した。高瀬はため息と共に腰掛け、栄口に話しかける。 「お前んトコの『目』、あれなんなんだ?」 あの傍若無人さはないぞ?と続ける。 「阿部はヒドいヤツだから、人格矯正は無理ですね。」 「友達いないタイプだな。」 「良くお分かりで。」 市原と花井がぷぷーっと吹き出す。 「ああ、阿部から伝言。河合サン来たら直ぐに始めるから、空撃士はどこにどうすれば良いか看護師に訊いて学んどけ、だと。花井…はお前か。一緒に勉強しておけ。だそうな。」 これまたため息。ニシウラの者たちは慣れているが、阿部の傍若無人さは除虫屋でも知名度と人数でも圧倒的に凄いトウセイのエースにこれを言わせるか?と二人して黄昏た。朝なのに。 「じゃあ、看護師にレクチャーしてもらうか…」 その時、バタンとドアが開いた。手術着を着た看護師である。 「B型の血液型の方、いらっしゃいませんか?」 B型は田島の血液型。ニシウラだと… 「必要な時に水谷いないし…」 だからクソレなんだと遠慮もクソもなく栄口さんが言い放つ。除虫屋は全員ドン引きした。ニシウラ最強の主夫を怒らせるとどんだけ恐ろしいか… 「あ、オレ、B型です。」 救いの挙手は高瀬のものであった。 「何分くらいで終わりますか?」 「10分くらいかしら。」 「こっちも大変だけどあっちも大変だな。」 「すみません、頼みます。」 花井と栄口が頭を下げる。釣られて市原と佐倉も頭を下げてしまったが、それはご愛嬌。 「オレが戻るまで、説明聴いておいてくれ。」と言いながら、強力な結界展開中にクラッシャー受けたとの事で、研究者二人と看護師に連れられ、高瀬の姿が消える。 「じゃあ花井、市原。」 「ああ。」 「おう。」 「オレはどうすれば良いでしょうか。」 佐倉がおそるおそると尋ねてきた。今回、攻撃特性を持つ者はぶっちゃけ必要ない。だが、彼を一人にしておいても不安だ。 「大地、お前も聴いておけ。」 「わかりました!先輩!」 市原の言葉にびしっと背筋を伸ばした佐倉は元気良く返事した。 「あの元気少し分けてほしい…」 花井の独り言は市原と栄口に聞こえたが、返す言葉もなくスルーした。 二人とも同じ気持ちだったので。 残りのメンバーが到着した時。 「じゃ、市原が最初にあの柔らかい空気膜を張る。」 ああ。と市原が頷いている。 仕切っているのはやっぱり栄口。佐倉はパイプ椅子に座り船を漕いでいる。 「栄口!」 巣山が呼び掛けると、花井、高瀬、市原が振り向く。佐倉はそのままだ。 「お疲れ様。」 「おまえらこそ。」 巣山を先頭に、次々とねぎらいの言葉がかけられる。 「栄口、市原さん、高瀬さん。ご迷惑をかけてすいません。」 その中で、一際丁寧な言葉を発したのは西広であった。顔色も悪く、ふらふらしている。 モモカン、いいですか?お願い。とひそひそ話が阿部の後方でやり取りされる。 泉がすたすたと西広の前に行くと、「そんな顔色じゃ、レンが悲しむぞ?田島は…怒るだろうな。」と遠慮無く言い放つ。 「でも、オレがあの中で一番年長で…何も出来なくて…」 最後は涙混じりの声であった。よほど自分を追い詰めていたのか。うなだれている西広からしゃくりあげる声が響きわたる。 「でも脱出する時、指示出したの西広だろ?」 あの二人にはできねぇ。と泉が苦笑する。流石、未成年トリオの年長者だ。 「でも…何も出来なくて…」 「もういい。少し眠って落ち着け。」 先ほど水谷から取り上げたスプレーを西広に吹きかける。声もなく崩れ落ちる西広をキャッチしたのは西広の近くで静観していた河合であった。 「このまま寝かせるのか?」 「西広は被害者だ。空きベッドを用意するように頼んでおいた。」 阿部が事もなさげに言う。 引き取りに来るまで、と花井ともども奪い取ったパイプ椅子を連ねたその上に横たわらせ、さて、と。と阿部が言う。 「レンの膜…確かに繭だな。」 全員が頷く。仲沢たちも車の中で簡単な説明を受けたのでどれだけ異常であるかは少しは認識している。 「この中で一番レベル高い光撃士は?」 ざわざわした後、まだぐーすか寝ている佐倉に指先が伸ばされる。 「大地!起きろ!!」 市原は大地の頭をはたきながら起こす。瞬間、カッと両目を開いた佐倉はキョロキョロと周囲を見回すと、「みんな集まっているのに〜」と始めた。全員ため息。 「とりあえず顔洗ってこい。」 「そうします!」 わああああと泣きながら洗面所に駆け込んで行く佐倉を生ぬるい視線で見送った後、仲沢が阿部に「何で光撃士?」と問う。 「水谷は全員の手元が狂わないように真上から光を照らせ。」 「え、あ、うん。」 いきなり名前を呼ばれおたおたする水谷を見ずに、市原に言う。 「佐倉には空撃士が膜を破れなかった場合、強い光をあてて破れるかどうか試す。」 その為にグラサン買ってきたよドンキで〜と水谷が言う。なるほど。人数分の黒いサングラスが用意されている。 その考えには至らなかったと、市原も頷く。 「結界士である花井と河合サンはレンの右腕付近を除いた場所に結界を張る。…これは交互に行うものとする。」 「了解。」 「分かった。」 花井と河合がめいめい答えを返す。 その時にびしゃびしゃな佐倉が「すっきりしました!」と戻ってくる。 「開始は5分後。それまで準備!」 阿部の言葉に全員が頷いた。 5分は西広を移動し終わると踏んだ時間だ。と後に阿部は報告書作成の時に語った。何はともあれ、5分でできることは少ないようで実は多い。空撃士たちはめいめいイメージトレーニングに励んでいる。花井らは結界の維持にどれくらい時間がかれられるか相談中。光撃士たちは何かわけわからないことをわいわいと話している。 何事も成功するには成功したイメージを思い描けば良い…なんて言葉を聞いたような気がしないでもないような感じだが、今の市原にはそれが必要であった。自分は本当は『目』で参加したはずなのに、気が付いたら『空撃士』で強制参加となっている…。『目』も疲れるけど、コツがいる『空撃士』のほうが疲れ度が違うのだ。しかもあまり練習はしていない。緊急除虫はしていないサキタマにおいて、『目』以外殆ど使う必要性がなかったからだ。 タイさん。恨みます。 イメージとしては三橋の右腕を包み、その中央をくぼんだ形にする。そのくぼみに沿って栄口がやや強めの膜を張る、その中央を高瀬が外側は強く、腕に面した場所は柔らかいという膜を張り、三橋の膜と勝負。できたら看護師がすぐに点滴と機材を取り付ける手筈になっている。 市原は一つ深呼吸をした。 「先輩!出たとこ勝負!」 プレッシャー、なにそれ美味しいの?という顔で佐倉が声をかけてくる。あまりの大声に全員が飛び上がって驚く。 (そーいやー、こいつこういうの好きだもんな。) 今度はため息。でも小さく。失敗したらあの阿部とやらに言えばいいのだ。 「あ、そういえば市原。」 こちらもイメージトレーニングしていたらしい高瀬が急に話しかけてきたので驚いた。 「田島と三橋を送り出した後、水谷とうちの河合と言っていたんだけど、まだレベル昇格テストの結果、受け取ってないだろ。」 はい。というと、高瀬が笑いながら、「お前の空撃士レベル、結構あがるぞ。」とのたもーた。 「はぁ?」 「トウセイ、ニシウラ、ムサシノ第二、ミホシからそれぞれお前の空撃士としてのレベルが高いことを書類で提案することになったと。」 へ? 「とりあえず、伝えてみた。」 レベルアップ…うわあ。 「テンションあがります!」 「それは良かった。」 河合が横から入ってくる。高瀬はくるりと後ろを向くと、またイメージトレーニングに入ったようだ。 河合から簡単な説明を受けている時、なぜか高瀬はしゃがみこむ。あちらさんもアガり症なのかと考えながら河合の話を聴いている。 その高瀬に何とも言えない顔をした仲沢が近づく。 「あと2分で戻ってきてくださいよ。」 「お、驚いた顔が……」 ぷるぷる震えてまで笑いを堪えている。これで高瀬のプレッシャーもとれるだろう。 栄口は巣山から「できっぞ!」とか言われている。 それぞれの空撃士がリラックスをしたところで。全員が位置につく。時計を見ていた阿部が一同に告げる。 「空撃士、作戦開始!」 始まった。 |
もっと訂正入れたかった…?キリがいいのでここまで〜。
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