「うへぇ、窓ないし。」
 地下か?と田島が問う。わからない。と、西広が答える。
「う…上のほ、う」
 息も絶え絶えのレンが答える。
「ならいい。田島、真横に衝撃を。」
「了解…なんか阿部入ってるぞ?」
 げぇっと思わずたじろいだ田島に、西広は三橋を背負ったまま思わず苦笑してしまう。
「あはは。生き霊が憑いてるかも。」
「そりゃ怖い!」
 田島は笑いながら言いながら、向かって左側の壁にフルパワーで衝撃破を出す。
 轟音を立て壁が崩れる。入ってくるのは夜の風。
「おお!読み通り!」
 埃まみれで自画自賛してる田島をよそに、西広はできる限り埃を吸い込ませないように庇い、もうもうとあがる砂煙をできる限り避けた場所で背負っていたレンをそっと降ろす。壁にもたれかけさせると、話しかける。
「レン?」
「う…」
 既に座る体力も残っていないのか、ずるずると壁から床へと上半身が倒れていく。
 一仕事終えた田島がすかさず倒れるほうに座り、受け止める。
「レン、もうすぐだからな。もう少し待っててくれ。」
 服の袖でレンの顔に浮いている脂汗を田島にしては丁寧に扱う。
「今の一撃で除虫屋なら誰でもわかるだろう。」
 よいしょ。と西広が反対側のレンの隣に座る。
「もう着いて…あれ?」
 上のほうから泣き声が聞こえる。西広が、ん?という表情で田島を見る。
「あの独特な泣き声…」
「味方?」
「無論!」
 田島が耳をすますと仲間の声が聞こえる。

 今のは田島の衝撃破だから泣かずにここの真下を壊して!人命救助に君の力が必要なんだ!

 わかりました!

「おい!」
 言いながら出来うる限りの硬い結界を張る。

瞬間

どごぉん!

 田島のそれよりも数段威力のある力が間近で起きた。飛び散る破片。もうもうとあがる埃。そんな中でも田島の結界はびくともしなかった。
「田島、結界士レベル上がっただろ。」
「おうよ!」
 徐々に埃が薄くなっていく。その中に透明な階段が出来上がる。
「レン?西広?田島?いるか?」
「ここだー!」
 大声を田島があげるが聞こえないのか、声をあげた者……栄口がきょろきょろしている。
「田島、結界を緩めて。」
「あ、そっか。」
 見る間に結界が薄くなる。
「栄口!ここだよ!」
 今度は西広が声をあげる。今度こそ栄口は振り向き、自分たちを見つけてくれた。
「レン!西広!田島!」
 栄口と後に続く佐倉が見える。
「大地、照明弾!」
「はいっ!」
 埃のために星は見えないが、夜空と分かる空に、大地は光撃を行う。
「水谷もこのくらい出来たらいいんだけど。」
 大地を除く全員が眩しさに目がくらんだ。
「阿部?今三人を確保した…」

ターン!

「うぉっ!」
 栄口が応援要請をしようとした時、佐倉の足元に穴が空いた。
「癒し手をこちらへ寄越せ…!」
「てめえ…」
 5つの視線が拳銃を持った一人に注がれる。
「さあ、癒し手をこちらに。」
 左手がレンに向かって差し出された。
 一気に形勢逆転したかとこの場にいた者たちは思った。院長の部下がこれまた拳銃を持ちながら、ずかずかとレンに近づいてくる。
「癒し手の眠りが終わった後も私の手伝いをしてもらう。」
 ここは研究室もホスピスもあるからね。と笑う。
 結界を最大限に強くして、なおかつ二人でレンを渡すまいかと抱きしめていた田島と西広だが、やはり気付いたのは田島だった。素早く視線で合図を送る。
 部下が突然田島の結界に手を置く。何か機械を持っていた手は触れるとぱぁんと大きな音をたて、結界が四散した。学校での訓練で結界が解除出来なかった者用に作られたそれは、やはりノーダメージではなく、作った本人へと跳ね返る。本職除虫屋の、中レベルの者に使った場合、ダメージはどれだけかかるのかわからない。
「がっ…」
 ダメージを受けた田島がショックでがふっと吐血する。倒れそうになるのをこらえ、どうにか落ち着く。外見からのダメージは見られないようだが、内臓をかなりやられたようだ。
 レンがその姿に白い顔を土気色にさせ、田島に向けて腕を伸ばす。ちょうちょを飛ばす気だ。西広はともかく、田島も慌てる。
「レン!」
 西広はその腕を押さえつけ、さらに強く抱きしめる。
「いいんだ。癒し手は使わなくて。」
「でも…」
 レンの指先から小さな光がシジミチョウくらいの大きさのちょうちょを形成する。
「レン!オレは大丈夫!」
 ぐいと口を拭きながら田島が元気良く…かなりのダメージだったので空元気だったが…ニカッと笑って手を握る。指先のちょうちょはふぅっと消える。そんなレンの手は冷たく、がさついついた。
「そうやでぇ。空元気でも元気は元気。」
 光が各方向の部下の拳銃を落とし、なおかつ痺れさせ動かなくする。…光撃士の高レベルの技だ。
「ヒーローはいいとこでかっさらわないとな。」
「言ってろ、バカオダ。」
「シュウちゃん…」
「除虫屋ミホシ、推参ってな。」
 田島があけた壁の外が騒々しい。ニシウラを含む除虫屋が到着したようだ。
「遅くなった。悪いな。」
 猫目の少年は言うとニッと笑った。
 天井から、逆さまのぶらさがった状態で。
 それと同時に穴のあいた壁からニシウラをはじめとする除虫屋たちが侵入を果たす。
「花井!結界ブレイカー持ってるから要注意!」
「了解!」
 栄口からの報告に三人のみ結界が張られる。
「未成年誘拐、癒し手特例法違反、恐喝、傷害…殺人未遂?も入りそうだねぇ」
 のほほんとした中に一本芯が入った秋丸のせりふである。
「沖、サンキュー!」
 イヤホンから流れた報告は後方支援に回っている二人から埼玉の除虫屋支部から警察をまわしてもらうことと、誰が見ても危険な状態のレンを受け入れてくれる病院の目処がたったとの事だった。
「三橋くんのほかに田島が大怪我してるから、そちらも確保して。」
 レンに聴かれないようこそっと言った河合の言葉に沖が慌てて了解と返す。
「阿部、このフロアの他の人間は?」
 珍しく前線で『目』を使用している阿部が「動いていない三人の他はこいつらだけだ。」と答える。
 なら、と河合が阿部の肩に手を置き、この廊下全体に結界を張る。
「天井にいるのも味方だから。一応。」
 阿部が余計な一言を付け加えてのたまう。
「ニシウラの『目』!夜道は一人だと思うな!」
 織田が早速食らいつく。天井から叶と同時に床に降りる。
「責任逃れできないように証拠集めもしておいた。」
 機嫌悪く阿部に叶が言う。すると一気に反転ニヤリと笑いながら「了解」という返事。
「なあ、水谷、あいつ友達いるの?」
 マイクを消して市原が尋ねると、「やっぱ皆聞くんだ、それ。」と苦笑まじりで返された。
「まあ、仲間はいるけど友達とかは…」
「水谷、後でちょっと話しあるからな。」
 本人がいきなり割って入り水谷と市原は飛び上がった。水谷のマイクがオンになっていたようだ。
「…恐いな。」
「阿部よか恐いのいるから更に倍。イニシャルはYS」
『水谷、一週間飯抜き』

 まだマイク消し忘れた!

「なんかどこの除虫屋も大変なんだな。」
 半泣きになっている水谷の肩を市原はぽんぽんと叩いた。

全員合流〜。よかったよかった。

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