倒れ伏したレンは直ぐに癒し手の眠りにつこうと緑の膜を張ろうとする。
 その時の西広の行動はオレがつまみ食いをするスピードよか速かったと後に田島が言った。
 レンが持っていた薄いナイフを取り上げると、

ざくっ

 迷わず左腕を刺した。見る間に溢れ落ちる血。
「西広!」
 この凶行を怒る前に田島が慌ててレンのもとにしゃがみこむ。西広は狂ったわけではない。レンを助けるためだと無理やり思いながら。
「う…」
 気を失っていたレンは痛みで気付いたようだ。そして自分の意思を無視して、癒し手の力は容赦なく発揮する。
「くぅっ…」
 左腕の刺された場所が緑色に包まれる。レン本人には激痛が襲っているだろう。
「田島!レンを背負うから手伝って!」
 血のついたナイフを服で拭ってズボンのベルトにかけると西広は怒鳴った。怒りの赤い顔ではなく、自分が何をしているのか分かっている真っ青な顔だ。
「わかった。…レン、まだ寝ちゃダメだかんな。」
 レンの服は血と汗で湿っていた。だがそんなことを気にしている暇はない。レンを安全な場所で癒し手の眠りにつかせてやらないといけないのだ。
 よいしょ。と西広がレンを背負って立ち上がる。ふらりとよろけたが、気合とそのほか何かプライドみたいなもので立ち直る。
「田島、緊急事態だから衝撃士の力は人に使ってもいい。…出来るね。」

問い。ではなく確認。

「無論!」
 ったりめーだろ?と田島は拳を手でぱんと叩く。快音。
「ドアの鍵は開いているはず。」
「ぶっこわしたほうがいいか?念のため。」
「普通に開けようよ。被害は最小限に。」
 にわかに好戦的になった田島に、やれやれと西広は答えたのだった。手にはレンからとりあげたワイヤーをしげしげと見ている。
「これを瞬間的に動かしたら切れるかな?」
「おー!楽しそう!やるやる!オレやる!」
 こんな状況の中のことをすっかりと忘れたような田島が楽しそうにワイヤーをドアの隙間にかけたのであった。


(市原が哀れみの眼差しで見たのがわかった…)
 天に訊きたい。この世に国会権力の風穴を空けるのはこの男ではなかろうか、と。
 佐倉大地のバイクはすごか…いや、凄まじかった。車を全て追い越し、信号無視、なんだか捕まったら免停確実のような気がした。多分警察がいたらそうなるのだろう。だが、何故か遭わないのだ。警察とかそんなのに。
「栄口さん!5分経過しました。」
 ああ、そうだ。ここで疲れてはいけないのだ。
 GPSの指し示す場所はこの病院。ここのどこかにレンたちはいる。
「佐倉くん!いくよ!」
「大地でいいっス!」
 空気を固めて階段状にすると駆け昇る。
「了解。大地、足元気をつけて。」
「はいっ!」
 バイクの運転していたアレとは思えぬ元気さで後をついてくる。念のため、と栄口は思ったことを口にする。
「オレの前にはまだ階段できてないから。」
「そうなンすか!」
 ああ、この神経回路は田島と良く似てる。と思いながら、階段を作る。
 でも田島にはこれないし。
「オレはなんて心が汚れてるんだー!!」

あったら田島じゃないし 笑

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